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「そういや、なんでこのお店は『ふるふる』って名前なんですか?」
ある日、そう尋ねると十夜さんは真顔で、
「24時間『ふる』活動しているから」
「は?」
「24時間『ふる』活動しています。大事な事なので二回言いました」
といった。俺は思わず頭を抱える。
「…『ふる』に活動という事がいいたくて、二回言うという強調姿勢だったんですね?」
「うん。大概の人は擬音だと思うらしい」
「いや、普通、そうでしょ?」
「まあ、面白い名前じゃない?『ふるふる』って。店名でこんなにインパクト受けるお店って、多分そうそうないんじゃないかな?」
「俺も久々に衝撃受けましたよ」
「そう言えば、頭抱える陽太君って、初日以来だね」
くすくす笑いながら、俺の赤い髪を撫でる十夜さん。ガキ扱いされてんなぁ、おい…
「陽太君の髪って、綺麗だよね」
「そうっすか?」
「うん。でも、なんで金色のメッシュなの?」
赤い髪を誉められて嬉しく思いつつ、そう問われ、俺は一瞬考えた後、
「…内緒」
笑いながら、そう答えた。「よう、陽太」
「あ、総長」
いつものように、アジトに『ふるふる』で買ったお菓子を持っていってメンバーに配っていると、なんと総長直々に声をかけられた。
俺が『ふるふる』で買った総長達の分は幹部を経由しているから、こんな風に直接会話をするなんて、まず無い。俺、下っ端だし。総長の隣にはいつも通り、シンさんがいる。相変わらず仲がいいなぁ…
前なら羨ましくてしょうがなかったけど、最近はなんか心から微笑ましく思える。十夜さんのお陰かな?
「いつも悪いな。シンも喜んでいる」
「いえ!総長達に喜んで貰えて、俺も嬉しいっす!!」
びしっと背筋を伸ばし、思わず大声で答える。なんか、すげー嬉しい。俺が誉められているのが、じゃなくて、十夜さんが作ったお菓子が喜ばれているのが。
そんな俺に、シンさんが話しかける。
「それで、あのね。陽太さん、お願いがあるんだけど…」
「なんすか、シンさん?」
「これ…」
そう言って、シンさんがおずおずと紙袋を差し出す。なんだろう?と思ってみたら、なんか箱が。
「これは?」
「パウンドケーキだそうだ。いつも、お前がシンやメンバーに買っている店のパティシエにお礼として持っていって欲しい」
そう言うと、総長は苦笑して、
「本来なら、俺達が行くべきだろうが、お前、言いたくないだろ?これ以上、お前に負担はかけたくはないんだが…」
と言う。しかし、俺としてはそっちよりも…
「や、それは全然問題ないっすけど、いいんすか?」
「何が?」
「いや、恋人の手料理を他の奴に渡すのがっすよ。せっかくシンさんが作ったのに…」
恋人の手料理をほいほいあげていいんだろうか。俺だったら、嫌かもしれない。総長だって、シンさんの事になると、人が変わる。
だが総長は、
「あぁ、それは問題ない。話を聞く限り、その点は心配なさそうだからな」
という。なんで、そう言えるのだろうか?分からない。
そしたら、総長はフッと笑って、
「お前の態度見ていたら、お前がその人に惚れているなんて、分かる」
と言った。その一言に固まる、俺。


……え?総長、今なんて……


「……すいません、総長。今、なんて……」
「だから、惚れているんだろ?その『ふるふる』の店員に」
「え……?」
思わず、絶句。買ってきたお菓子がバサリと落ちる。
いや、確かに好きだよ?あの穏やかで優しい時間は。え、でも…えぇっ?!
これ、恋?!そうなの?!誰か教えて!って、総長言ってんじゃん!!
「…陽太、どうも混乱しているところ悪いが」
「はいっ!?何でしょうか、総長?!」
「お前…自覚無かったのか?」
「自覚?!何の自覚っすか、総長!?」
完全にパニックに陥る俺。そんな俺を見て、同じ下っ端メンバーが笑う。
「陽太、お前もちつけ」
「そうだぞ、もちつけー」
「てめぇもおちつけよ、この野郎共。おちつけがもちつけになってんじゃねぇか」
「ちょっと、冷静になったみたいだな、陽太」
カラカラ笑うメンバーに思わず冷静に突っ込む。すると、総長がそう言う。
あ、やべ。俺、尊敬している総長の前で滅茶苦茶パニクっていた。
そんな俺を見て、シンさんが何か考え込む。
「シンさん?どうしたんすか?」
「…ねぇ、陽太さん。その人の事を考えてみて?」
「え?なんで?」
「検証してみない?陽太さんがその人の事、どう思っているか」
「はあ…いいっすけど……」
「じゃ、始めよう。目をつむって…」
シンさんに言われた通り、目をつむる。
「はい、目の前に『ふるふる』が見えました。陽太さんはどう思う?」
「どうって…」
なんか、嬉しいんだよね。『ふるふる』の灯りは優しいから、それだけで十夜さんを連想させる。
「お店に入りました。でも、お客さんが他にいます。どう思いますか?」
「どう思うって…」
引きこもりとかだったら、なるべく怖がらせないようにする。ホストとかなら、からかわれながら何だかんだ言って軽口叩きあう。やくざとか極道なら、礼儀正しくする。それが、あの店での対応の仕方。それがルールってのもあるけど、何より、十夜さんに迷惑かけたくないんだよね。
「驚いた事に、店にいたお客さんは、このチームのメンバーです。どう思いますか?」
え!?それ、嫌だな。絶対、あの穏やかな時間ぶち壊される。十夜さんも困るだろ!!
「しかも、いつもの店員さんと仲良く話しているのは、竜馬さんです。どう思いますか?」
「どうって…」
それは…総長には悪いけど、すげー嫌だ。だって、総長、強くてかっこいいし。俺じゃ足元にも及ばないから、なんか捕られた感が…いや、シンさん第一主義の総長がそんな事するはずないけど。でも…理屈では分かっても、嫌だな。
「竜馬さんと仲良く話していた店員さんでしたが、陽太さんに気がつくと、笑いながら、陽太さんに近づいてきました。さて、どう思いますか?」
それはすげー嬉しい。総長より、俺なんて。十夜さんも、俺との時間、楽しみにしていたら、凄い嬉しい。「はい、結果ね。陽太さん、こんな顔していたよ?」
そう言って、シンさんが自分のスマホを向ける。そこには、すげー嬉しそうな俺の顔が。
「これ、最初の質問の写真。で、次はこれ」
そう言って見せたのは、考え込む写真。あぁ、二つ目の写真はどう対応するかで悩んだもんな。
「これは割と普通で判断出来なかったから、次の質問では、メンバーを出したんだ」
そう言って見せたのは、これでもか!と言わんばかりに嫌そうな顔をする俺の写真。だって、実際嫌だし。だから、教えねぇし。
「次は竜馬さんを出してみた。陽太さんは、竜馬さんを尊敬しているって聞いたから…意地悪な質問して、ごめんなさい」
しゅん、としながらシンさんが次の写真を見せる。そこには、凄く辛い顔した俺の顔があった。
「そして…最後の質問の写真はこれ」
そう言って、シンさんが見せてくれた写真を見て、俺は驚いた。俺、こんな表情出来るんだって。
そこには、凄く幸せそうで蕩けるような笑顔を浮かべる俺がいた。なんか、総長がシンさんに向ける表情に似ている。
「あぁ、そっか…」
なんか…それ見たら、すとん、と素直に心に入った。「そっか、そうだったんだ…」
俺、十夜さんの事…
「俺、あの人の事、好きなんだ」
好きだって。あっさり受け入れた。
男同士とか、相手は一回りも年上とか、情報はさっぱりないとか、なんか、全部どうでもいい。
俺、十夜さんが好きだ。あの穏やかで優しくて楽しい時間を共有出来る、あの人が好きだ。
「ばっかだな、俺…」
金のメッシュが入った赤い髪をくしゃり、と掴みながら、呟く。
どうしよう。自覚したら、すげー好きで好きでたまらなくなって、愛しくて愛しくて…すげー会いたくなってきた。
会いたい。あの細い体を抱き締めたい。愛を囁いて、一杯キスしたい。
抱くとかはまだいい。とにかく、今は会いたい。カウンター越しじゃなくて、直接触れあいたい。
「すんません、総長」
「なんだ?」
「俺、今から行ってきます」
『ふるふる』で買った菓子を近くのメンバーに押し付けると、
「はあ?!来たばっかで何言ってんの、お前?!」
と、押し付けたメンバーが怒鳴る。それを総長が制する。
「行ってこいよ」
「総長…」
「幸い、ここ最近はこの辺りは落ち着いているし。それに」
そう言って、総長はシンさんを見る。
「行く口実もあるしな」
「はい、陽太さん」
にこにこ笑顔で、シンさんが袋を差し出す。それを俺は頭を下げて、迷うことなく受けとる。
「シンさん、あざっす!」
「お礼なんていいよ。むしろ、こっちがお願いするんだから」
「それでも、ありがたいっす!」
会いに行く口実が出来たんだから!
「じゃ、いってきます!」
「おう、行ってこい」
「頑張ってね、陽太さん」
「ふられたら、やけ酒付き合ってやるよ」
「骨は拾ってやるからなー」
総長とシンさん、それに下っ端仲間に見送られ、俺はアジトを飛び出した。
バイクを走らせ、『ふるふる』に向かう。途中で捕まると面倒なので、珍しく安全運転で。けど、制限速度ギリギリで走る。
早く早く。会いたい会いたい会いたい。
『ふるふる』につく。俺はヘルメットのまま、引き戸を引く。
「…えっと、いらっしゃいませ?こんばんは?どちら様でしょう?」
ヘルメット姿の俺を見て、十夜さんは困ったように出迎える。俺は慌ててヘルメットを外すと、カウンター兼ショーケースに近付く。そして、十夜さんの手を掴むと、ジッと瞳を見つめた。黒曜石のように黒く、綺麗な瞳。それが戸惑うように俺を見上げる。
「あ、あは。陽太君だったんだね。どうしたの、急に?」
「十夜さん…」
「ん?な、何かな?何か、様子変だけど、大丈夫?というか、さっき、買い物したのに、また来てどうしたのかな?」
なんか、色々言ってくる十夜さん。でも、一度自覚したら、止まらない。
「十夜さん、俺……」
「う、うん?何かな?陽太君」
「俺、十夜さんの事…」
「ぼ、僕の事?なんかしたっけ、僕?」
「ちょっと黙って下さい!俺、真剣なんです!!」
なんとかのらりくらりはぐらかそうとする十夜さん。でも、俺はそんな十夜さんを捕まえる。思わず怒鳴ったけど、こうでもしないと十夜さんは逃げそうだ。
怒鳴ると、一旦目をつむった後、十夜さんも真剣な眼差しで俺を見上げる。そんな十夜さんを俺は見つめる。
「俺ね、十夜さんの事…」
「うん」


「好きです。付き合ってください」


言った。
沈黙が訪れる。しばらくすると、十夜さんが口を開く。
「……ごめんね」
その声に、俺はがっくりと項垂れる。
駄目、か…
そうだよな。総長とシンさんみたいなのって、稀だよな。俺達、男同士だし、俺、十夜さんの一回りも年下だしなぁ…
「あの…すいませんでした」
「あ!ち、違うの!!そうじゃなくて…」
「…十夜さん?」
さぞかし気持ち悪かっただろうなぁ、と謝ると、何故か慌てる十夜さん。それに首を傾げる。
「そ、そうじゃないんだ!ごめんねってのは、断るって意味じゃなくて!!」
「…うん?」
え、断ったんじゃないの?!そ、それって…!
いやいや、待て待て。期待するのは早いぞ、俺。じゃあ、なんで「ごめんね」なんだ?訳分からん。
わたわたしていた十夜さんだけど、一回深呼吸した後、俯いてしょんぼりとした顔で申し訳なさそうに、
「僕…好きって感情が分からないんだ」
と言った。それに正直、驚く。
だって十夜さん、俺より一回りも年上なんだぜ?何回か恋愛しているのが、普通だろ?
「その…恋愛じゃないのの好き嫌いは、なんとか分かる、けど…恋愛は、さっぱりで…初恋だって、したことないから…そういうのは、全然、分からなくて…」

だから、分からないから、ごめん…


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