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リュディガーはひどく機嫌が悪かった。使用人たちはあまりの主人の機嫌の悪さに皆ぴりぴりとして屋敷内にはただならぬ空気が漂っている。リュディガーの機嫌の悪い原因。それはほかならぬロルフのせいであった。
なんだあの人狼は。本来人狼とは我が一族同様に気高いモンスターであると聞いていた。だが、あの犬はどうだろうか。捕えられてから五日ほどが経ち、その間自分が犬のように扱っても文句を言うどころか抵抗のての字も見せない。それどころか、自分の扱いを全て無言で受け入れる。
それがリュディガーには面白くなかった。初めて会ったあの日。こちらがどれだけ殺気を放とうと怯むどころかこちらの言い分など全く聞かずに無理やり血を飲ませたくせに、なぜ今全てを甘受するのか。制止を聞かずにナイフに手を掛け、己の身も顧みず引き抜いた犬。あの時の強い光を宿したあの目を、もう一度見たい。
リュディガーは紅茶を全て飲み干すと寝室に閉じ込めたロルフの元へと再び戻った。
寝室に戻ると、気配を感じてロルフがケージの中で体を起こす。じっと自分を見つめるその目の色を、何とかして変えてやりたい。
リュディガーはケージの扉を開け、ゆっくりと体をかがめ中に入った。それに驚いたのはロルフの方で、突然のリュディガーの行動に口を開けたまま体を縮めて少し後ずさる。誇り高いヴァンディミオンの者が、犬と呼ぶもののケージに入って来るだなんて。
後ずさったロルフにリュディガーはじり、と近づく。リュディガーが近づく分だけ、ロルフはじりじりと後退する。やがてケージの端にまで追い詰められ、どうしてよいのかわからずにロルフはリュディガーを見つめた。
リュディガーが、そっと手を伸ばしロルフの首輪に触れる。
「あ…」
思わずびくんと体を跳ねさせ、小さく声を上げるとリュディガーは金の目を細めた。
……良いことを思いついた。
首輪に触れた指を、するりと鎖骨のあたりまで滑らせる。その刺激にロルフはまた小さく声を上げる。
「ぁ、…や、」
「犬の雄は万年発情すると聞く。貴様もそうなのか?」
リュディガーの言葉にロルフの顔がかっと朱に染まる。それにリュディガーはその形のよい口角をにい、と引き上げ尖った歯を見せた。
「い、や…!いやあああ!」
ぐちゅりと後孔から卑猥な水音が響く。がしりと後ろから腰を掴まれ、ぱん、と音が鳴るほどに腰を打ち付けられる。
「も、やめ…!あっ、、ぐ、ぅ…!あ、あ!」
泣きながら静止を求める悲鳴を上げれば、更に激しく揺さぶられロルフはキツくシーツを掴み頭を振った。
犬のように四つん這いにされ、リュディガーに犯されてからどれくらいの時間が経ったのかわからない。
意識をとばそうとするロルフを許さないとばかりにリュディガーは無理に引き起こし、更に奥深くを抉った。
「あ、あ…!あっ、あっ!」
「は…っ、犬め、どうだ…っ、嬉しかろう…!浅ましき貴様等の貪欲な性欲を主人自らが満たしてやっているのだ…!」
喜ぶがいい、とリュディガーは背面座位にしたロルフを容赦なく突き上げる。中の弱いところを固い肉棒でめちゃくちゃに突かれ、ロルフは泣きながら吐精した。
「はは…!そうだ!もっとまき散らせ!貴様の汚らわしい欲の証で己の身を汚すがいい!」
「ひ…、う、あ、あ!だめ、いや、いや…!あ、あぁあ!」
びくん、びくんとロルフの体がリュディガーの腕の中で跳ね上がる。やがてぷつりと糸が切れたようにロルフはそのままかくんと倒れ込んだ。
リュディガーが腕を放すと、どさりと汚れたベッドの上に崩れ落ちる。同時にロルフの胎内から自身が抜け、そこからどくりと自分の出した白濁が溢れるのを見てリュディガーはごくりとのどを鳴らした。
…足りない。
いまだ硬度を保ち、天を向く己自身に苛立ちを感じずにはいられない。なぜ、どうして。
あの淫魔であるインキュバスが相手であった時でさえこのような状態になったことなどない。
無理矢理に組み敷いた瞬間に自分を見て激しく抵抗するロルフに、ひどく高揚した。
そうだ。その目だ。怯えながらもその奥に強さをたたえたその目にリュディガーはもっと激しくにらめ、と心を踊らせた。初めはロルフのその目を見るだけで満足だった。だが、気がつけばリュディガーはロルフの体を夢中で貪っていた。
自分が突き上げる度に漏れる嬌声に、涙に。激しく血が騒ぐ。ロルフがのどをそらし絶頂したとき、リュディガーはそこに食らいつきたい衝動に駆られあやうくまた血を飲んでしまうところだった。かわりにその欲望を、ロルフを陵辱することで発散する。
だが、中に欲を吐き出せば出すほど、突けば突くほど、もっとロルフを陵辱したくなってしまった。
己の浅ましい身が悔しく、代わりにロルフを激しく罵倒する。そんな心中とは裏腹に、リュディガーの欲望はさらに増すばかりであった。
意識を失い、白い顔をしてベッドに倒れるロルフの首輪にそっと触れる。と同時に激しく心臓が鼓動を刻み、金の目が欲に濡れる。
――――…喰らい、つきたい…!
牙をむき出しに口を開け、その首もとに近づいた瞬間、ロルフが小さくひくりと動いた。
それに一瞬にして我に返ったリュディガーは、ばっと音がするほどに飛び下がる。
何を…!
まさか、ヴァンディミオン家の者ともあろうものが、我を忘れて犬の血を貪ろうとするなど。
己の取ろうとした行動に、怒りで体が震える。
…なにもかも、この犬のせいだ。この犬の血を飲んでから、私はおかしくなってしまった…!
憎々しげにロルフを見つめ、その髪に触れる。
「絶対に、離さん…!」
私を狂わせた罰だ。その身が滅びるまで許しを乞い続けるがいい。
リュディガーは気付かない。半ば狂喜のような輝きをたたえた己の目に。
眠るロルフの髪に触れたまま、何時間も飽きずにロルフを見つめていた。
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