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『…』


ぴくりと、ロルフの頭の大きな耳が動く。どこからだろうか。今、かすかにうめき声のようなものが聞こえた。ロルフはもう一度耳を澄まし、さきほど拾った声の方向へと神経を集中させる。

『う、…』


聞こえた。やはり、誰かが怪我でもしているような声が少し先で聞こえる。ロルフは、声のした方へ恐る恐る足を進めた。



「う、ぐ…っ、」
「…!だ、大丈夫ですか…!?」

声のする方には、一人の青年が壁に項垂れかかり倒れていた。どうやら怪我をしているらしい。駆け寄って目の前にしゃがみ込んで、その姿を見て驚く。

流れるような銀の髪、。切れ長で見た者を全て射てしまうかのようなその鋭く強烈な獲物を捕らえるかのような金の瞳。彫が深く、高い鼻。ついぞこのあたりでは簡単にお目にかかれないほどの美形だ。そして、ロルフはその青年を見て緊張のあまりごくりとつばを飲み込む。


…この人、吸血鬼だ…!しかもおそらくトップクラスのハイレベルモンスター…!


ロルフは一瞬どうしようかと迷ってしまった。吸血鬼は、現存するヨーロッパモンスターの中でも格がはるかに上だ。非常にプライドの高い彼らは、自分たちの同族以外のモンスターをひどく毛嫌いする傾向にある。イアンは吸血鬼の王族でありながら、どちらかというととてもざっくばらんとした性格だと言えるだろう。彼は吸血鬼の中でも異端分子に値する。本来なら、人狼と吸血鬼は犬猿の仲とでもいうべきほどに仲が悪く。特に吸血鬼が人狼を嫌うのだ。

でも…

その場から離れようとして、その腕に光るものに気付く。銀のナイフだ。誰かに悪意を持って刺されたのであろう。銀は普通の武器とは違い、魔を払う聖なる力を持つためにモンスターの血肉をいとも簡単に切り裂くことができる。それほど大きくないナイフだが、この吸血鬼はその先から魔力を吸われ思うように力が出ないのであろう。

ロルフは意を決して壁に項垂れかかる吸血鬼に近づいた。

「…っ、だれだ…!」

ロルフの気配に気づいた吸血鬼が、自由にならない体をそのままにぎらりとその金の目をロルフに向ける。その目に、ロルフは一瞬怯んでしまった。目だけ、のはずなのに、恐ろしいほどの殺意だ。

「…動かないで。怪しい者ではありません。じっとして」
「…!きさ、ま…!人狼か…!」

ロルフは吸血鬼のオーラに震える体を叱咤しながら、その腕に刺さるナイフに手を伸ばす。

「私に近づくな!この汚らわしい犬風情が!」
「…!」

叫ぶと同時に、ゴウ、と周りの空気が震撼するほどの気をぶつけられる。その殺意に息が止まりそうになりながらもロルフは吸血鬼の腕に刺さるナイフをしっかりと両手で握りしめた。

「ぐ、う…!」

途端に、ジュウ、と己の手が焼ける。

「…!やめ…」

それを見た吸血鬼が制止をする間もなく、ロルフは渾身の力を込めて銀のナイフを抜き去った。

「う、ああ…!」

抜き去ると同時に、握っていたナイフをからんと落とす。ロルフの両手は、その力で大きなやけどを負っていた。あまりの痛みにうずくまるが、すぐにロルフは自分の来ているシャツを破り両手に巻きつける。そして、唖然とした顔でロルフを見る吸血鬼の傍へ寄り自分の首筋をその口元に近づけた。

「何をする…!離れろ!」
「吸って下さい。俺の血なら、吸えばおそらくあなたの傷は一瞬でふさがるはずです。」

吸血鬼はモンスターの中でもその能力すべてに秀でている。治癒力も高く、力の源である血液を飲むことで多少の傷なら一瞬で塞がってしまう。
銀のナイフがあそこまで深く刺さってしまっては人間の血では高い治癒力は望めないだろう。だが、自分なら。


吸血鬼には多少劣るものの、人狼はかなり魔力のランクの高いモンスターだ。


ロルフは、自分の血であれば例え銀のナイフの傷であろうとすぐに塞がるだろうと思ったのだ。

「さあ、早く。」
「断る!貴様のような下種な者から血をもらうくらいなら…、このまま命果てた方がましだ…っ!?」

ロルフに対して激しい拒否を示す吸血鬼に、ロルフは吸血鬼がそう叫んだと同時に叫ぶために大きく開けたその口に自分の首筋を押しつけ、その牙を無理やり食い込ませた。

「…っ!」

じくり、と流れ出る血液に、無理やり牙を突き立てさせられた吸血鬼が一瞬にして固まる。怪我をし、魔力を失っている完全ではない今の状態でのその甘い誘惑は吸血鬼としての本能をかき立てるには十分だった。

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