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3

ロルフを押し退けようと体を掴んだ腕は、そのままロルフの腰と後頭部に回され、吸血鬼は金の目を一層輝かせ後頭部に回した手でロルフの髪を乱暴に掴みぐいと仰け反らせ喉元を晒させると食い込ませた己の牙をさらに深く突き立て、思い切り吸い上げた。

「ひ…、!」

途端に、ロルフの体がびくんと跳ねる。吸血鬼が意志を持って血を吸い出した瞬間、血を吸われているその首筋からロルフの体に味わったことのない快感が走った。

「あ、あ…!ぁん、ん…!」

じゅうじゅうと吸われる度、ぞくぞくと強烈な快感が体中を駆けめぐる。
吸血鬼は、相手に抵抗させないために血を吸うと同時にその牙から媚薬のような物を注入させると聞いたことがある。それがこんなにも強烈なものだとは思いもしなかった。

「ふあぁ…!あーっ、あーッッ…!!」

ロルフは初めて味わうその快感に、がくがくと体を痙攣させボロボロと涙をこぼす。血を吸われるだけのその行為で、絶頂を迎えさせられ射精してしまった。

「いや…!ぁ、…っア、ア゙ぁ…!」

絶頂の最中も血を吸われ続け、びくんびくんと体が跳ねる。終わらない快楽に、ロルフは泣きながら絶頂させられ続けた。


「は…、は…っ、」

牙が抜けると同時に、抱きしめられていた体を離されぐたりとその場に倒れ込む。
涙に濡れた顔を吸血鬼に向けると、吸血鬼はひどく嫌悪感を露わにした顔で倒れるロルフを睨みつけていた。

「…っ、この、下世話な犬風情が…っ!この私に、無理やり己の獣臭い血を吸わせるなど…!」

吸血鬼の怒りで空気が震えるようだった。ぼんやりとする視界で吸血鬼の腕を見るとすっかり傷口は塞がっている。それを見たロルフは、怒りを向ける相手に向かって微笑んだ。

「…、よか、った…。腕…、なお…」

そこまで言って、ロルフは意識を手放した。



目の前で意識を失ったロルフを吸血鬼は睨みつけながら今日の事を思い返す。
何という厄日だろうか。

自分は吸血鬼の王族で、その立場と姿は数多の者をいとも簡単に虜にする。是非己の血を吸ってくれとその身を差し出す者も多い。そして、お眼鏡にかない血を吸われた者は身も心も自分に夢中になってしまうのだ。

今日はその中でも、特に盲信的であった1人のインキュバスが『自分だけのモノになってくれ』と懇願してきた。だが、吸血鬼にとってそのインキュバスはただの食料のうちの一人にすぎない。一蹴して踵を返すと、銀のナイフを手に襲いかかってきたのだ。

いつもならばかわせたはずのそれは、新月と言う魔力のもっとも落ちる時期と銀のナイフの聖なる気に一瞬の隙を作ってしまい、避けたはずが腕に深々と突き刺されてしまった。

インキュバスは瞬時に灰にしてやったのだが、ナイフは抜くことができなかった。小さなナイフのはずのそれは、その効力を遺憾なく発揮し吸血鬼の魔力を吸い取っていく。

とにかく城に戻らねば。その途中に、ロルフに出会った。

吸血鬼の一族は人狼の事を目の敵にしていた。それはこの吸血鬼も例外ではない。クールで冷淡な吸血鬼に比べ、激情化で血の気の多い人狼とはいわば水と油なのだ。

人狼にこんな失態を見られるなど、なんという恥か。

目の前にいるのが人狼だとわかるやいなや、殺気を全力で放つ。だが、その人狼は怯えるどころか近付き、己の手が聖なる力で焼け焦げるのもかまわずナイフを抜き去った。そしてなんと、怪我を癒すために己の血を吸えという。


誰が汚らわしい犬の血など!


だがロルフが無理やり自分の首に吸血鬼の牙を突き刺させた瞬間。
口の中に今まで味わったことのないほどの豊潤な血の味が広がった。それは吸血鬼の正常な思考を狂わせるほどに甘く。

気がつけばロルフを抱き寄せ夢中で血を吸っていた。



我に返り、倒れ込むロルフを見て自分の行動に怒りが沸く。なんということを。吸血鬼の王である自分が、はるかに劣る犬の血を夢中でむさぼるなど…!



「…いいだろう、愚かな人狼よ。この私に血を吸わせたことを後悔するがいい。」

貴様に私に関わった罰として絶望を与えてやる。その罪を贖え。


吸血鬼はロルフを抱えると、ふわりと夜空に舞い上がった。

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