×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




1

このお話は『いとしのマイモンスター』に出てくる二人の兄の話です。人外ファンタジー、18禁になります、苦手な方はご注意下さい。
尚、文中に出てくる物は全て私の想像であり現実の物ではありません。


攻め…リュディガー・ヴァンディミオン
受け…ロルフ・ベルガモット

傲慢王(美形)×気弱健気(平凡)

-----------------------------

「うわ!やべぇ、遅刻する!」


バタバタと二階からシャツに手を通しながら階段を駆け下りてくる弟にため息をはく。毎回の光景とはいえど、もう少し落ち着いて余裕を持って行動できないのかとロルフは眉を下げ困ったように笑いながら弟のためにコーヒーを淹れた。

「あんがと、兄さん!」
「いいけど、もう少し早く起きればいいのに」

笑いながら窘めると弟のレオンは頭のてっぺんにある二つの耳をぴん!とたてて『だって!』と憤慨しだした。

「あいつ、あのくそ吸血鬼!イアンの奴が、離してくれなかったんだよ!ひ、人の鳴き声を、『狼らしくない』とかばかにして…!」

真っ赤になってぷりぷり怒るレオンに、ロルフは困ったように笑う。



…きっと鳴き声の意味を履き違えてんだろうな。ああもう、イアン様はほんとにレオンをからかうのが好きなんだから…。

レオンとロルフは、いわゆる狼男と呼ばれるモンスターだ。レオンが先ほど口にしたイアン、彼は吸血鬼の王族で半年ほど前からレオンとは交流がある。イアンは吸血鬼の王族でありながら人狼であるレオンに一目ぼれをし、ことあるごとに強気で喧嘩っ早いレオンをからかって楽しんでは言葉と腕巧みにレオンと閨を共にする。一方のレオンは、断らないことから恐らくイアンの事を好きではいるのだろうが元の性格が邪魔してかなかなかそれを認めようとはしない。

そして、イアンに好き勝手啼かされた翌日には真っ赤になって怒りながら兄のロルフにイアンの愚痴をこぼすのが日課であった。

「やっべ!行ってきます!」
「あ、レオン。お弁当。」
「ありがと!」

ロルフの差し出した包みを受け取ると、レオンは玄関へと走り出そうとして止まり、ロルフの元へ駆け戻る。

「…兄さん、無理すんなよ。俺、帰ってからいくらでも手伝うからさ。」
「ありがとう」

心配そうに兄の頬を撫で、犬の挨拶のようにぺろりと一舐めしてからレオンは今度こそ家を飛び出した。


レオンを見送ってから、ロルフは部屋に戻って片づけを始める。そして、遅めの自分の朝食を用意して静かに手を合わせて食事を始めた。

ザワークラウト、ポテト、トマト、ピクルスにベーコン。

その皿の上にはおよそオオカミの血を引くものが食すものではない野菜が並ぶ。



ロルフは、人狼でありながら肉が食べられなかった。幼い頃、人狼の歴史の映像を学校の授業で見せられた。その映像とは、はるか昔のご先祖様が人間を襲ってその肉を食している姿。その後、人類が繁栄すると同時に少しづつモンスターたちの常識や世界観も変わり、人間から動物へと食生活を移す過程を描いていた。

その映像を見た多くの仲間たちはやはりモンスターの血が騒ぐのか、興奮していた。だが、ロルフだけは違った。元々ロルフは人狼の子供でありながらとてもおとなしく心の優しい子であったがゆえに、その映像を見てひどくショックを受けてしまった。

ロルフは、あまりのショックに肉を食べられなくなってしまったのだ。

ベーコンやハムなどの加工品なら口にはできるものの、肉そのものを口にすると激しく拒否反応を起こすようになってしまった。ゆえに、ロルフは人狼でありながら野菜を主食とする生活になってしまった。もともと人狼であるロルフたちは何もしていなくてもそのエネルギーの消費量が人間よりも格段に激しい。それは、満月の夜の変身の為でもある。その体躯に見合ったエネルギーの消費量と、摂取するエネルギー量がはるかに違いすぎたためにロルフはひどく体の弱いまま成長してしまった。

二人の両親は、ロルフが学校を卒業すると同時に死んでしまった。学校を卒業してからは弟のレオンと二人、ロルフは自宅で体力を使わない仕事をしながら家事を一手に引き受けて生活をしている。

ロルフは、自分とは違い人狼のあるべき姿のとても元気な弟を一人前にすることが生きがいだった。


「…今日は、新月か…」

レオンから、『今日は遅くなる』と連絡が入ったためにロルフは一人で少し散歩に出ることにした。前までなら、レオンが自分のいない時に一人で出ることを許してくれないので一人出歩くことはなかったのだが、レオンがイアンと一晩共にすることがあるようになってからロルフはレオンに内緒でこっそりと夜の散歩を楽しんでいる。
心配してくれるのはありがたい。だけど、弟に守られてばかりの自分が少し恥ずかしい。

こうして、歩くだけでもちょっとは体力がついてくれるんじゃないかな、なんて思いながら無理のない程度に少しづつで歩いて、出かける距離を伸ばして行った。

ふさふさと大きな尻尾を揺らしながら暗い夜道を歩くと、体の奥から少しづつ力が湧いてくるようだ。人狼である自分たちは月から力をもらっている。今日は新月だから、そんなに魔力は上がらないけれども、家にいるよりかは遥かに体力の向上が望める。

ロルフは夜の気を目いっぱい吸い込みながら以前よりもまた少し、足を延ばしてみることにした。



それが、ロルフの人生を大きく狂わせることとなる。

[ 49/495 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]


top