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※『強面バンビ』や『一颯と鉄二』で主役級脇役の春乃のお話です。こちらを読むと春乃のイメージが壊れてしまう恐れもあります。
そして、BL要素がほぼありません。
私の中では実はこういう子なんだという設定なのですが、春乃に対してイメージ像が強くついていらっしゃる方、そしてBLの入らないお話に興味のない方はお読みにならない方がよろしいかと思いますのでお避けください。
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「え?父さま、出張なの?」
「そうなんだ。すまないな、春乃。せっかくのコンクールなのに…」

僕は綾小路春乃(あやのこうじ はるの)、15才。綾小路家という大きな家柄に生まれた三男坊だ。三男坊とはいっても、長男である兄様の次の次男坊、一颯(いぶき)とは双子なんだけど。
僕らには、母様がいない。僕と一颯を産んですぐに死んでしまった。

それでも、父様は僕らにとても愛情を注いでくれたし、二つ上の兄様も僕らをとても大事にしてくれた。一颯だって、ほぼ毎日一緒にいる。使用人だって沢山。だから、寂しくなんて全然ない。


僕は小さい頃からピアノを習っている。発表会にはいつも兄様と一颯が来てくれた。父様だって、仕事で忙しい中出来るだけ応援しに来てくれた。

今回、結構大きなコンクールがあって、皆『応援しにいくから!』と言ってくれていた。
でも、コンクール二週間前の今日。父様が仕事でどうしてもその日に出張に行かなくちゃ行けなくなったらしい。

「いいよ、父様。大丈夫、お仕事頑張ってね。」

僕はにっこり笑って父様にそう言った。


「えー?親父行かないの?なら俺もやめとこっかな〜、鉄二と遊んでる方が楽しいし」

一颯は昔からピアノとかが苦手で、最近は父様に連れられて渋々来てたって感じだ。気持ちもわかるのであえて何も言わない。

「好きにすれば?」
「さみしい?鉄二と行ってやろうか?」

そっけなく言うと意地悪な顔をして笑いながら身を乗り出してきた。僕が拗ねてるとでも思ってるんだろうか。こいつ、鉄二にもやるけどほんとくだらない駆け引きっぽいいたずらが好きだね。だから毎回変な男や女しか捕まえられないんだよ。ガキ。

「今回のコンクールは未就園児は入場禁止だよ」
「え?鉄二保育所行ってるじゃん」
「就園児を辞書で引きな」

机の上にあった辞書を投げつけてやると受け取り損ねて頭に当たりその場でしゃがみこんでうんうん唸った。鈍くさいな。

父様も一颯もだめか。兄様はどうだろうか。ま、別にコンクールなんて自分の為なんだから誰かに来てもらうとかいいんだけどね。


「やあ、綾小路君。もうすぐコンクールだね。負けないよ」

翌日、学校に行くと靴箱の所で風紀委員長が声を掛けてきた。風紀委員長は同じ系列のピアノ教室に通っているらしく、コンクールで知り合った。去年のコンクールで何故か僕と張り合ってきて、勝手にライバル宣言された。いくつかのコンクールで毎回声を掛けてくる。でも、最近それがちょっとウザい。何故かって?前からやたらと絡んでくるなとは思ってたんだけど、最近になってそれがひどくなってきた。どうやら僕を組み伏せたいらしくコンクールのたびに
「負けたら僕の物になれ」
とか言ってくる。勝手に勝負事にされるのははっきり言ってうっとおしい。だから僕はいつも無視してるんだけど、懲りないのか学校でもやたらとスキンシップを図ろうと近づいてくる。
今も肩に手を回そうとしてきたのでカバンでガードして冷ややかな目線を向けてやった。

「ふふ、君のそのクールな仮面が僕の手でいつ剥がれ落ちるかと思うとぞくぞくするよ」

バカは相手にしないに限る。髪を弄ろうとした手を避けて教室に向かおうとすると、前に回って靴箱に手を付き進路を塞いだ。

「なあ、春乃くん。君は一体いつになったら僕に堕ちてくれるんだろうね?」

いい加減腹が立ってきて、どうしてくれようかと思っていたら目の前の委員長の顔面に靴がクリーンヒットした。
「ぎゃあ!」と間抜けな声を出してうずくまる。靴が飛んできた方に顔を向けると、一颯が友人とげらげらと笑いながらガッツポーズをしていた。

「よっしゃああ!変態の顔面にヒット!50点だぞお前ら、ジュースおごれよ!」
「まてまて、点数ははるのんにつけてもらう約束だろ!」
「はるの〜ん、無事〜?今の一颯の変態当て、何点?」

はるのんって呼ぶな。

「距離が近かったから30点」
「まじかー!」

靴を当てられた委員長が顔を押さえて立ち上がり一颯たちを睨みつけた。

「お前ら、よくもこの僕に靴なんてぶつけやがって…!風紀室に連行するぞ!お前らみんな罰則室行きにしてやる!」

委員長の脅しに、一颯が顔から笑いを消して僕を後ろに庇い委員長の前に立った。

「人の弟に手ぇ出そうとしといてよくもそんなことが言えたもんだな?いいぜ、罰則室に連れてけよ。そのかわり出て来た日にゃあてめえは俺らの敵だがな?」

お前が無事なのは春乃が何も言わないからなんだぜ?

一颯の脅しに顔を青くして慌てて立ち去る。あんなのが風紀委員長だなんてこの学校大丈夫なんだろうか。

「春乃、だいじょぶ?」

くるりとこちらを向き、にこにこと一颯が笑う。

「別になんてことないのに。靴ぶつけるとかばかじゃないの」
「うわ〜ん、はるのんひでえ〜!」
「一颯頑張ったのに報われないね〜!はるのん冷たい!」

ぞろぞろと一颯の友人たちが近づいてきてげらげらと笑って一颯の肩に手をやったり軽く頭を小突いたり。

「ちぇっ、かわいくない弟だね〜。おニイちゃまありがと〜くらい言えないのかね」
「オニイチャマアリガトウ」
「棒読み!超棒読み!」

言われた通りに口にすると一颯の友人がげらげらと笑った。

「ほんとやめてよね。大きなお世話」

つん、とそっぽを向いてその場を立ち去る僕の後ろで一颯と友人たちがまた皆でバカみたいに笑ってた。

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