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6

「おっ、うまそう!一口くれよ!」

弁当を広げていると、横からぬっと伸びてきた手をぱしんとはたき落とす。

「いって!なんだよけち!」
「けちで結構。これは俺の愛妻弁当なの。誰がお前にやるかっての」

じろりと睨んでやればぶーぶー言いながら自分が取ってきた食堂のご飯に箸をつける北山。そんな俺たちのやり取りを隣で顔を赤くして恥ずかしそうに俯く圭介に頬がゆるむ。


あの日、プロポーズを受け入れてもらってから俺はすぐに圭介を自分の家に連れて行った。オヤジと母さんに紹介するためだ。久しぶりに圭介を見た母さんは、すごく驚いた顔をしていたけどすぐににっこりと満面の笑みを浮かべて頷いていた。

『圭介くんは、保育園の時からずっとずっと洋介くんの後ばっかり追いかけてたもんね。そっかあ、君がお嫁さんかあ。長年の夢が叶ってよかったね!七夕の時とか、毎回短冊に書いてたよね。「よーちゃんとずっと一緒にいれますように」だっけ?それから、大好きなお友達の絵を描くときはいつも洋介くんで…』
『せ、先生!』

母さんの口から次々に語られる圭介のエピソードに、圭介が真っ赤になって制止をかける。俺はその話を横で聞きながら後で母さんにもっと聞いてやろうとにやにやした。

それから、すぐに二人で不動産屋に行き、会社と実家の間くらいにある小さなマンションを見つけそこに住んでいる。

『寂しくなるね』

そう言って少し寂しげに微笑んだ母さんに、家を出るときに今までの感謝を込めて頭を下げた。ついでに、きちんと自分の気持ちとも決別。

『礼二郎さん。俺、保育園の時からずっとずっとあなたが好きだった。ううん、今も好きだよ。…母さんとして、大好きだ。だから、これからもよろしく。』

そう言って頭を下げた俺を抱きしめて泣いた。



「しかしうまそうだよな〜、そりゃお前俺が取った弁当、必死になって取り返すよな。」
「え?取り返す?」

俺と北山のやり取りを隣でみていた圭介がきょとりと目を瞬かせる。
そんな圭介に北山はにやにやとしながらあの日の話をしだした。

「いや、こいつ前に一回、弁当箱2つ持ってきてた時があったんだけど。俺が一つ寄越せ!って取り上げたら、慌てて立ち上がって反対の弁当箱渡してきたんだよ。『そっちはだめ、こっちをやるから!』って。何が違うんだって、中身のぞいてやったから覚えてるんだけど、そんときの弁当、そんな感じだった。」

それ、と言って北山が俺の弁当を指さす。

「あれ、圭介くんの作った方だったんだな〜。そりゃ必死になって取り返すわな〜。」

驚いたような顔をして、圭介が隣の俺の顔を見た。そりゃそうだろうな。あの日、圭介が泣きながら俺に別れを告げたきっかけの出来事はそれだから。
あの時、圭介はすぐにその場から立ち去っていたのだろう。その後の俺と北山のやり取りを知られてなんだか気恥ずかしい。

「よーちゃん、ほんと…?だって、だって…」
「ほんとだよ。あの時はまだ自覚がなかったけど、なんとなく圭介の弁当を誰かにやるのがすごく嫌だったんだ。だから、すぐに母さんの方を北山に渡して交換したんだよ」
「ぶは!上原、顔真っ赤!」
「うるせえ」
「…そっか…、よーちゃん、僕のお弁当…、そっか…」

なんとなくばつが悪くて圭介の方を見ずに言ったその言葉を聞いて、圭介がものすごく嬉しそうに微笑んで何度も何度も呟いた。

「あ、ごめんね。僕、先に行くね。お昼寝の時間だ」

本来圭介は託児所内で預かっている子供たちと一緒にお昼を食べるんだけど、同僚の保育士さんたちがいい人ばかりで新婚なんだからとたまにこうして俺とお昼に出してくれる。まあ、それでも圭介は同僚に気を使ってこうして早めに戻るんだけど。

俺が北山にもし同じことをしてもらったら、絶対にそんなことしない。人の愛妻弁当をねらう奴なんかに気を使ってやるもんか。

圭介は俺のために保育士になったっていってたけど、本来子供が好きなんだろう。たまに覗く託児所で、子供相手にものすごく楽しそうにしている圭介を見て、子供に嫉妬する。
オヤジも同じ思いをしてたのかなあ、なんてふと思って、今まで散々オヤジの前で母さんに甘えてやったことを反省する。今度お詫びの意味を込めて二人に温泉旅行をプレゼントしよう。

「じゃあ、僕いくね。またね、北山さん、よーちゃん。」
「ああ、頑張れよ」
「おう!またねん、圭介くん!なあ上原、子供ちゃんに大事な嫁さん取られて寂しいなあ〜?」

立ち上がって挨拶をした圭介と俺を見比べてにやにやと嫌な笑いをしてからかってくる北山に圭介が真っ赤になる。

「いいんだよ。夜は俺の息子の世話をしてもらうんだからな」
「よ、よーちゃん!」

それに逆ににやりと笑みを返して言ってやれば、北山が『エロ魔神!』なんて悔しそうに歯ぎしりをした。対して圭介はさっきよりもさらに真っ赤になってぷるぷると震えている。
美味そう。

「たっぷりかわいがってくれよ?圭介センセ」
「し、知らない!よーちゃんのバカ!」

ぷいっと怒って行ってしまった圭介の指には、きらきらと光る指輪。

今日の帰りも圭介はいつものように駐車場で俺を待っているんだろうな。あの日々のように手を息を吐きかけながらじゃなく、嬉しそうに指輪を見つめながら。




end

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