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5

その日、俺はハイスピードで仕事を終わらせて会社の出口で圭介を待った。もう冬の最中、たまに吹く木枯らしが肌を刺すほど冷たい。冷たくなった手にはあ、と息を吐き出して、駐車場で寒そうに待っていた圭介の姿を思いだした。

こんな寒い思いをして、毎日待っていてくれたんだなあ。

「よーちゃん…?」

体を揺らしながら出口にある柱にもたれかかっていると、ついぞ聞かなかった声が聞こえて顔を上げる。びっくりしたように、目を丸くする圭介。久しぶりに見る圭介の顔にほっとしてる自分がいる。

ああ、会えた。ようやく会えた。

「よーちゃ…、うわ!」

そう思うともう堪えることなんてできなくて、大股で駆け寄って圭介の腕を引いて思い切り抱きしめた。圭介の体温が、冷え切った体にじわりと沁み込んで心まで温かくなる。腕の中の圭介は、なんとか俺から逃れようと必死にもがいてる。圭介の後ろから次々に出てくる会社の奴らもじろじろ見てくるが、そんなの構うもんか。

「よーちゃん、離して…!み、皆見てるから…!」
「いやだ」

間髪入れずにきっぱり答える俺に、腕に中の圭介が息をのんだのがわかる。離すもんか。絶対に。

「よーちゃ…、やめてよ…どうしてこんな、」
「離さない。お前が…、圭介が、俺とずっと一緒にいるって言うまで離さない。」

泣きそうな声で俺の胸を押していた圭介が、ぴたりとその動きを止めた。それをいいことに俺はますます圭介を抱きしめる。抵抗しなくなった圭介の頬にそっと手を添えて俺より背の低いその顔を覗き込むと、圭介は大きな目に涙をいっぱいに浮かべて唇を噛みしめていた。

「…ど、して…、だって、だって、よーちゃんは…」
「うん。ごめんな、圭介。俺、バカだからさ。お前をどれだけ傷つけていたかなんてちっとも気付かなかった。毎日毎日、俺に弁当渡しながら、ほんとは影でいっぱい泣いてたんだろ?俺さ…、お前が何にも言わないのをいいことに、自分で『お前が好きでやってるから』なんて言い訳して、甘えてた。…お前があの日から来なくなって、母さん…礼二郎さんの弁当を毎日持たされても、全然嬉しくなんてなかった。食べてても、なんだか味気なくて…やっと気づいたんだ」

俺が言葉を紡ぐたび、疑いと哀しみに染まっていた圭介の目がどんどんと違う色を帯びてくる。ああ、その目だ。保育園で、俺の後をずっと追いかけていたその目。

俺の事が大好きだって言うその目は、昔から変わらない。

「圭介、ごめん。返事が遅くなって、今まで散々傷つけて、待たせてごめん。俺は、おまえが好きだ。…お前が言ったように、確かに俺は礼二郎さんが好きだよ。でもそれは、恋愛対象としてじゃない。俺の母さんとして好きなんだ。…俺が、愛してるのは…、恋人として、嫁として手に入れたいのはお前だ。」

そう言って、そっと圭介の額にキスをしてから体を離し、圭介の前にひざまずく。そして、ポケットから小さな箱を取り出して圭介の右手を取り、その掌の上に箱のふたを開けてそっと置いた。

「お前が、まだ俺の事を少しでも思ってくれているなら…、許してくれるなら、どうか受け取ってくれないか。」

自分の手の中にあるそれに、圭介が口を開けたまま固まっている。

「どうか、俺のお嫁さんになってください。そんで、毎日俺に弁当を作ってください。」
「…っ!」

箱の中には、キラキラと輝く石のついた銀色の指輪。
昨日、母さんと話をして自分の気持ちにようやく気が付いた俺はその足ですぐに近くの宝石店に飛び込んだ。サイズは、これくらいかな?ってやつを選んだんだけど、購入店が違っていたら変更してくれるって言ってたから。

ほんとは、プロポーズを受け入れてもらってから一緒にちゃんと選びに行った方がよかったんだろうけど、それじゃ遅い気がしたんだ。俺の本気を、圭介に知ってほしかった。
振られることは考えなかったわけじゃない。でも、もしもう圭介に見限られていたとしても、今度は俺が追いかける気でいたから。


保育園時代から、15年以上俺を追いかけてきてくれていたんだ。そんな俺が一回二回振られたくらいで圭介を諦めるわけにはいかない。

俺だって、20年経っても…ううん。これから先一生圭介を思い続けよう。



「ひ…っ、ぅ…、う…っ、」

顔をくしゃりと歪めて、ボロボロ涙をこぼし反対の手の甲を口元に当てて圭介が肩を上下に揺らしながら必死に嗚咽を堪えている。

「圭介、愛してる。…受け取ってくれる?」

もう一度、懇願するように問いかけると圭介は涙をこぼしながら何度も何度も首を縦に振った。


「…ふ、ふつつか、ものですが、よろしくお願いします…!」
「…っ、やっ、たああああ!!」
「ひゃあ!」


真っ赤な顔をしてそのまま深々と頭を下げる圭介を、大きく歓喜の叫びを上げながら立ち上がってがばりとお姫様だっこをしてその場でくるくると回った。びっくりした圭介がとっさに俺の首に落ちないようにと腕を回すから、近くなった顔にここぞとばかりにキスをしてやった。

いつの間にか俺たちの周りには人だかりができていて、キスをした瞬間周りから大喝采が起きる。

「おめでとう!」
「きゃあー!公開プロポーズ、ステキ!」
「見せつけてんじゃねーよホモップル!」

ようやく自分の周りに気がついたのか、圭介が真っ赤になって俺の肩に顔を埋めて隠した。

「ありがとう!俺たち、結婚します!」

やんやとはやし立てる野次馬に大きく手を振って宣言をしてやると、再び大喝采がおきる。そんな中圭介は、顔を覆ってまたボロボロと涙をこぼして泣いていた。



――――その胸に、小さな箱をしっかりとだきしめて。

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