×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




3

「よーちゃん!おはよう!」
「あ、ああ、おはよう…」

あの、爆弾発言から一日たって次の日。圭介は昨日と同じように地下の駐車場で俺を待っていたのかにこにこと笑顔で駆け寄ってきた。

「はい、お弁当!」
「…あ、ああ。ありがとう。」

差し出される包みをぎこちなく受け取って、苦笑いを返すと圭介はとても満足そうに微笑む。

昨日、圭介からの逆プロポーズに真っ白になって固まる俺に圭介はこれから毎日俺の為に弁当を作ってくると言った。旦那様に弁当を作るのは嫁の役目だと。それに対して、俺が弁当は自宅で母さんが作ってくれるからと言った瞬間、圭介の顔が少し曇った。

『…確か、礼二郎先生だったよね?よーちゃんのお母さんになったの。まだ一緒に住んでるんだ?』
『あ、ああ。俺が実家から出てないからな。…圭介?』

ほんの一瞬、無表情になった圭介に不思議に思って顔を覗き込むと圭介はにっこり笑って上目づかいで俺を見た。

『…だめ。よーちゃんは、僕の旦那様なんだから。お嫁さんのお弁当以外、食べちゃダメだよ?』
『え、でも、』
『よーちゃん』
『…わ、わかった』

ぷくりとふくれた顔に思わずこちらが悪い事をした気分になって、圭介が弁当を作るのを了承してしまった。俺が頷くとものすごく嬉しそうに笑う圭介を見て胸が少しうずく。
じゃあまた明日!と手を振って先に会社の中に入ってしまった圭介の後ろ姿をぼんやりと眺めてしまった。

その時の俺は、圭介がどんな思いで俺が実家に住んで礼二郎さんの弁当を毎日食っている事を聞いていたのかなんて全く考えもしなかった。

宣言通り作ってきてくれた弁当をカバンにしまい、社内へ向かう。
自分の部署へ向かう途中にある社内託児所の扉からこっそり中をうかがうと、ひどく優しい笑顔で子供を抱いている圭介を見て、俺は何故か胸の奥がぎゅうと締め付けられるような思いをした。


それから、本当に毎日圭介は俺に弁当を作ってくれている。朝、駐車場で俺が来るのを待って弁当箱を渡し、仕事終わり、また駐車場で俺を待って弁当箱を回収する。
自分が残業の時は、違う弁当箱を朝渡し空の弁当箱を受け取る。
俺が残業で遅くなってしまった日は、いつまでも待っている。

「よーちゃん、お疲れ様!今日もきれいに食べてくれたんだ、ありがとう!」

今日も残業で遅くなってしまった俺はいつものように駐車場で待っていた圭介に空の弁当箱を渡しながら、赤くなっている圭介の鼻をじっと見た。

冬場の今、地下にある駐車場はかなり冷え込む。いつから待っていたんだろうか?一度待っていなくてもいいと言ったことがあるが、こいつは頑としてそれを聞き入れなかった。俺を待つ時間もわくわくして楽しいと。

「じゃあまた明日!」
「あ…、ま、待てよ」

弁当箱を受け取ってそのまま帰ろうとする圭介の腕を掴んで引き止める。今までそんなことをしたことがないので圭介は何事かと驚いた顔をして俺を見た。

「…めし、まだだろ。食って帰るか…?」
「え…?で、でも、でも…」
「い、いつも、弁当作ってもらってばっかで何も返せてないからさ。たまにはお礼させてくれよ。」

そう。圭介はいつもいつも、俺から弁当箱を受け取るとさっさと帰ってしまう。自分で自分の事を俺の嫁だと口にするくせに、弁当箱の受け渡し以外で俺の近くに来ることがないのだ。

なんだかそれに釈然としない思いを感じた俺は、今日自分から始めて圭介を誘ってみた。なんだろう。ただ飯を誘うだけなのにこんなにドキドキするなんて柄にもなくて自分で自分が笑える。

「行こうぜ、乗れよ。」
「…っ、うん!」

女性をエスコートするように助手席の扉を開けて乗るように促してやると、圭介はものすごく嬉しそうに笑って助手席に乗り込んだ。扉を閉めて運転席に移動して、車のエンジンを掛ける。ちらりと隣に座る圭介を見て、なんだかむず痒くなった。

[ 112/495 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]


top