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2

「洋介くん。上原、洋介くんだよね?」

車で会社に向かい、地下の社員用の駐車場に停めて運転席から出た瞬間に、後ろから声をかけられた。

「…そうだけど、あんたは…?」

誰かと思って振り向くと、そこには可愛らしい顔をした男。俺と同い年くらいかな?どこかで見たことがあるような、と首を傾げると俺に向かってにっこりと花のような笑顔を向けてたた、と駆け寄ってきたかと思うと、そいつはがばりと俺に抱きついてきた。

「うわ!なんだなんだ!?」
「やっぱり!会いたかった!――――よーちゃん!」

『よーちゃん』

懐かしい呼び名にはっとして抱きついてきたそいつの顔を見ようと肩を掴んで引きはがす。

「圭介…か?」
「!うん!ぼく、圭介だよ!覚えててくれたんだ!嬉しい!」

俺が名前を呼ぶと再び抱きついてくる。途端にふわりと甘い香りがしてちょっとドキッとしたけど慌てて首を振る。何を考えてんだ俺は!



圭介は、俺の保育園の時の仲の良かった友達だ。俺が礼二郎さんとオヤジを自分のせいでぎくしゃくさせてしまった時に罪悪感で落ち込む俺に『一緒に先生に謝りに行こう』と言ってくれた。
ひねくれてた俺は、そんな優しい圭介の言葉に俺の気持ちも知らないで、なんてかっとなってこいつを押して大怪我をさせてしまった。それでもこいつは俺の事をちっとも責めたりしなくて逆に先生を好きだった俺の事を知ってて、親父と先生がくっついたことを知って俺がかわいそうだって泣いてくれたんだ。

それからお互い保育園を卒園して小学校に上がる時、圭介はお父さんの転勤でどこか遠い所へ行ってしまった。それから、今まで会うことなんてなくて、まさかこの年になってこんなとこで偶然会うとは思わなかった。

「ひ、久しぶりだな圭介!どうしたんだこんなとこで、まさか中途採用でこの会社に?」
「ううん、違うよ。」

こいつこんなにスキンシップ激しい奴だったっけ、と少し戸惑いながらも話しかけると、圭介は首を振った。そういえば、スーツ着てないな。

「よーちゃん。ぼく、保父さんになったんだ。今日からこの会社の託児所で働くんだよ。」

うちの会社は、つい最近アメリカのとある企業の真似をして女性を積極的に採用するようになった。そのアメリカの企業は、働く子持ちの女性のために社内に託児所を設置してプロの保育士を雇っている。『女性でも優秀な人材には会社が働く場を提供するべき』という理念にうちの社長がえらく賛同して、うちの会社にも託児所を作ったんだ。
そこで、働くというのか。

「そうだったのか。じゃあこれからよく会うかもなあ」
「何言ってるの。会うどころじゃないよ、これからはずっと一緒だよ。だって、約束したよね?ねえ、よーちゃん。僕、約束通り保父さんになったよ。よーちゃんの好きな保父さんになったんだ。


――――――だから、僕をお嫁さんにしてください!」



キラキラと輝く目をした圭介は、眩しいほどの笑顔で俺に爆弾を落とした。

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