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15

「せーんぱい!いっしょにかーえろ!」

いつものように先輩の教室に迎えに行くと、先輩は友人と話をしているらしくこちらに気付いていない。

「先輩」

俺がもう一度先輩を呼んで、ようやく気が付くと友人に笑顔で手を振り、カバンを持ってこちらに駆けてきた。

「おまたせ、ごめんね。…池上君?」
「先輩…、俺にすぐ気付いてくんなかった。」

ちょっと拗ねたように口をとがらせる俺に、先輩が笑顔でよしよしと俺の頭を撫でる。

「ごめんごめん。明日のテストの事聞いてたから。でも、気が付いて君を見て歩く時間まで惜しくてちょっとの距離でも走っちゃったよ。」

他人が聞いてるとバカじゃないのかというくさいセリフでも、俺にとっては最高の愛の言葉で。単純だなあって我ながら思うけど、そんなことでも俺の気分はすぐに回復した。

「うん。俺も、早く先輩に会いたくて走ってきた。ね、先輩、早くかえろ?今日は外に遊びに行くんだろ?前から約束してたクレープ、食べに行くんだもんな。」

にっこり笑って頷いてくれる先輩の手を、ぎゅっと握って歩き出す。


あの日から、先輩は言葉通り俺が聞いたこと全てにこんな感じで『好きだ』と全力で示してくれる。俺も、先輩を好きだって事を回りくどいことなんてせずにストレートに伝える。

先輩の俺に対する態度や表情を見るたび、嫉妬させていたときよりももっと満たされた優越感を感じる。この人に好かれているんだと幸せを感じる。

周りの奴らは、今までの俺とは180度違う俺に驚いてたけど今では校内で認可されるほどの仲良しカップルだ。

ほんとに、あのころの俺から今の自分なんて想像できない。それどころか、昔のわざと嫉妬させていた自分の顔や態度を思い出すと吐き気がする。好きな人を苦しめて、何が恋人だ。

先輩とよりを戻した次の日、俺は先輩と涼介の彼氏の元へ向かった。二人で礼を言うと、中岡は照れくさそうに笑って頬を掻いた。


『あんな苦しい思いをするのは、自分一人で十分だからな。』


そう言って笑った。
先輩と中岡は今回の一件があってから仲良くなったらしく、時々四人でカフェテラスに行ってお茶をする。

仲良く笑い合うお互いの恋人をみて、俺と涼介は
『自分の恋人の方がかわいい』
とバカなのろけを始める。



先輩と二人、手をつないで寮へと向かいながらその横顔を見つめる。

「なに?」
「いや、かわいいなあ、好きだなあと思って。」

にこりと笑って素直に思っていることを伝えると、先輩は恥ずかしそうに笑って俯いた。

「…俺も、好きだよ。」

はにかむ笑顔に、胸がぎゅっと締め付けられるほど甘く痛む。

時折その幸せそうな笑顔の向こうに、あの時傷つけてばかりいた先輩の泣きそうな笑顔が見える。それは俺の過去の記憶であり未だ拭いきれない罪悪感が見せる幻なんだけれど、そんなとき俺は先輩を抱きしめて後ろに泣きそうに立つ過去の先輩に笑顔を向ける。

傷つけてばかりでごめんな。でも、未来にそんな顔をしてる先輩はいないから。

過去に戻って抱きしめてやりたいけれど、それはできないからそんな過去まで包み込めるように先輩をもっと抱きしめる。


「苦しいよ、池上くん」


言いながらも嬉しそうに照れて笑う先輩と、過去の先輩が少しずつ重なる。


そうしていつかそんな悲しそうな過去の先輩が現れないですむように、俺は毎日、溢れるほどの愛を注ごう。



end

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