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13

先輩と会わなくなって、1ヶ月が過ぎた。その間俺はいろんな奴らに告白されたけれど、全部断った。


どれだけ経っても、先輩の事を忘れることなんてできないと思う。
俺はこの1ヶ月の間、先輩がいない時間を見計らってあの図書室に入り浸っていた。ほんの少しでも、同じ空間を共有したくて。

我ながら、ストーカーみたいだなと思う。

先輩がいつも座る席に座り、今日はなんの本を読んだのかな、なんてあの本を読んでいるときの幸せそうな顔を思い出していた。



今日も放課後、もう誰もいなくなったであろう時間に一人図書室に入り、いつもの席に座る。
オレンジの夕日が差し込む窓をぼうっと見ていたら、がらりと音がして図書室の扉が開いた。

誰もいなくなったとはいえ、たまに遅くにやってくる生徒は俺以外にもいる。初めは先輩が戻ってきたんじゃないかと思って驚いて扉が開くたび何度もそっちを見ていたけど、一度だって先輩だった時はなかったからここ最近はもう振り返ることすらしなかった。



だけど、


「…久しぶり」


耳に届いた声と同時に、隣に立つその姿を見た俺は一瞬夢でも見てるんじゃないかと思った。



「…元気に、してた?」
「…はぁ…」

ちょっとぎこちなく笑ってそう言う先輩に、まともに顔を向けて返事をすることができない。


なんで、どうして。


今まで、一度だって先輩から俺に近づいてくることなんてなかったのに。

うれしい反面、ひどく緊張して手に汗が滲んでくる。こんな、まだ心の準備なんてちっともできていない時に会って話しかけられるだなんて思いもしなかった事態に頭がついていかない。


「…君が、図書室に、よくいるって聞いて…」


誰に聞いたんだろうか。結構バレないようにしてたつもりだったんだけど、誰かに見られて噂が回ったのかもしれない。

ああ、終わりだな。

きっと、先輩は文句を言いに来たんだろう。それもそうか。誰が使ってもいい図書室とはいえ、先輩にとっては大事な場所に嫌いな奴に入ってほしくないだろう。

「…すみません。出て行きますから」
「ま、待って!」

立ち上がってその場を去ろうとした俺の腕を掴み、先輩が引き止める。驚いて先輩を見ると、なんだか切羽詰まったような顔をしていた。

そんな顔を見ながら、俺は…抱きしめてやりたくなって、拳を握りしめて顔を逸らした。

「…すみませんけど、離してもらえませんか?」

俺の言葉に、びくりと体をすくませたけれど先輩はなんだかさっきより悲しい顔をして首を緩く左右に振った。

「…離してください」
「いやだ!あ、じゃなくて、あの…、あ、話、話を、したくて…」

『離してくれ』という俺に間髪入れずに拒否されて驚いたけど、『話をしたい』と言われてどうしようかと悩んでしまった。

だって、なんの話があるって言うんだろう。俺はまだ先輩が好きで、でも先輩はもう俺のことが嫌いで。あの時言われた以上の決別の言葉を聞かされたら、耐えられるか自信がない。

「すみませんけど、また今度にしてもらえませんか?今度…ちゃんと聞きますから。」

そうだ。俺、まだ先輩にちゃんと謝ってない。今この瞬間に話を聞いて、謝ることもできるけどそれをしてしまったら、それは完全な終わりの合図になってしまう。きちんと別れを告げられるように、せめて心の準備がしたい。

そっと手をふりほどこうとすると、先輩はひどく傷ついたような顔をしてますますつかむ手に力を入れた。

「だから…、俺といると、そんな顔になっちゃうでしょ?俺…先輩が好きだからさ。もうそんな顔させたくないし…好きな奴に嫌われてるのにそばに来られるの、結構キツいんだよね」

だから、離して。

そう言うと、先輩はその黒曜石のような目からぼろぼろと大粒の涙をこぼし始めた。

「せ、先輩…!?」

突然の出来事に慌てふためいて、先輩の前でおろおろしてしまう。どうして、どうして泣いたんだろう。何かいけないこと、言っちまったんだろうか。声を押し殺して泣く先輩に、何とか泣き止んでほしくてそっとその背中に手を添えてゆっくりと撫でる。一瞬びくりとしたけど、先輩はまるでもっとしてほしいとでもいうように俺の胸元にぽすんと顔を埋めた。

「…先輩…」

ふわりと香る先輩のシャンプーの匂いに、ぎゅっと胸が締め付けられる。離れなくちゃ、と思うけど泣いてる先輩をほっとけることなんてできなくて、ずきりと痛む胸をこらえて先輩が泣き止む様に背中を撫で続けた。



「…きらいだなんて、言ってない…」


しばらくして、ぽつりと先輩が呟く。一瞬何を言ってるのかわからなくて、もう一度聞き返そうと顔を覗き込んだら先輩は涙を流したまま俺をぎっと睨んだ。

真っ赤な顔で上目づかいで睨まれて、こんな状況だって言うのにドキドキしてしまう。

「先輩…?」
「俺、君に、嫌いだなんて一言も言った覚えない…!」

胸ぐらをつかまれて、ずい、と目の前に迫られて目を何度もぱちぱちと瞬きした。
なんだって…?嫌いって言ってないって…、どういう意味…?

「で、でも、先輩、もう俺とは付き合えないって…」
「だから!確かに、君の事は理解できないって言ったけど、嫌いだから付き合えないだなんて一言も言ってないじゃないか!俺…、俺が、君と付き合えないって言ったのは、君が好きだからなのに…!」


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