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4

次の日、堤は副会長親衛隊全員を集めて解散を宣言した。親衛隊の皆は堤を必死に止めたが、かたくなな堤の意志を変えることは誰にもできなかった。そして、昨日の信者たち同様今までの堤とのあまりの違いに驚愕した。堤は、こんな結果になってしまったことを全隊員に誠心誠意謝罪した。

そして、宣言通り堤はそれから白河に一切かかわることをしなくなった。白河が話しかけようが何をしようが、おざなりな返事をするだけでそれ以上口をきくことも行動を共にする事も無い。それに悲しむ白河を見て信者たちが激怒する。
だが、その怒りをぶつけると、また前と同じことを言われる。

「こないだ言わなかったっけ?あんたら、俺にあいつに関わってほしくないくせにあいつの相手しろって、嫌がらせされるのわかってて誰が相手するかっての。どうしてもあいつのために相手してやれってんなら、睨むのも文句言うのも口きくのもやめてくんない?」

そう言われてしまえば、何も言うことができなくなるのだ。そして、堤が相手をしなくなったのは白河にだけではない。あんなに愛して、つくしていた相田にも一切関わろうとはしなかった。


相田は、堤ががらりと変わってしまった日から、部屋の中の違和感に首を傾げた。自分がいつも生活している寮の部屋。快適であったはずのその部屋で、相田は困ることが多々あることに気が付いた。

それは日用品がなくなった時の、ストックがどこにあるかわからないことから始まった。
キッチンで、紅茶の種類がわからない。調味料や調理器具が、どこにあるかわからない。洗濯物の入れる場所がわからない。風呂の沸かし方がわからない。掃除の仕方、片付け。自分が生活するうえでしなければならないことが、どの順番でどうやればいいのかわからないのだ。
結果、探し物をしたり片付けに手間取ったりとひどく余計な事ばかりに手を取られ時間が無くなる。

日に日に汚くなる部屋に、相田は堤を訪ねた。

「なんでしょうか?」
「…あの、私の部屋、なんですが…。」

ひどく気まずそうに俯いて口ごもる相田に堤は『ああ』、と端的な返事を返す。

「わかりました。何がどこにあるかお教えします」

そう言って相田の部屋に来ると、ここにはあれ、あそこにはこれ、と相田にメモを取るように促した。



「自分でしなきゃいけないんですから、きちんと把握してください。」


堤の言葉に、相田の胸がずきりと痛んだ。



一通りの物の配置を相田に伝え終えた堤が部屋を去ってから、相田はメモを見ながら紅茶を入れてみた。レモンティーが飲みたくなって、冷蔵庫を開けてレモンを探してないことに気が付くと、ああ、聞き忘れた…とメモを見てため息をついた。

仕方なしにストレートティーを持ってソファに腰を下ろす。


『お疲れ様です。レモンティーと、ビスケットをご用意いたしました。』


耳の奥で、聞こえるはずのない幻聴が聞こえる。ソファに手をつくと、何だか埃っぽいのに気付いて軽く手で払う。

『お帰りなさい。ごめんなさい、お掃除がまだ終わってないのであちらのお部屋で少しお待ちいただいてもよろしいですか?』

いるはずのない、掃除機を片手に笑顔で出迎えてくれる堤が見える。

『お風呂、沸かしますね。』
『ご飯、できましたよ。』

そこかしこに、堤の姿を見て相田はずきずきと痛む胸を押さえた。



それから三日ほど、相田は白河にも違和感を覚えていた。あの時、はっきりと自分たちの好意を堤は白河に伝えた。それに対して、白河は
『み、皆のこと、そんな風に見たことなかったから…。これから、ちゃんと考えてみるね。』
そう言ったにも関わらず、依然として態度や行動が変わらない。

少し離れてみてみるとそれがよくわかる。自分に構う皆それぞれに、うまく気のあるそぶりをして一人に絞らないように、かつ皆が離れないようにしているようにしか見えないのだ。

「相田くん、どうしたの?元気ないね。」
「…いえ。何でもありませんよ。」
「そう?何かあったら言ってね、お、俺、できることなら何でも手伝うから。」

自分にぴたりと寄り添いにこりと微笑む白河の顔が、何だかいやらしく見えた。そんなはずはない、と頭を軽く振る。

『あざとすぎ。』

堤が白河に向けて放った言葉が頭をよぎる。

「…なら、私と、付き合っていただけませんか。」
「え!う、うん、どこに?お買い物?」


白川の返事に、相田はなにも答えなかった。


それからしばらくして、教師に引き止められ、生徒会の書類について尋ねられた。今まで放置してきた仕事の中に、どうしても今日提出しなければならないものがあったらしい。
慌てて生徒会室に行き、扉を開けて山積みになっている書類に驚く。何よりも驚いたのは、

「…書記?」

その山積みの書類の間に埋もれるように、無口な書記が一人机に向かい黙々と仕事をしていたのだ。
相田に気付き、ぺこりと軽く会釈をする。そういえば、あの堤の部屋での出来事からこの書記は白河のそばにいることが少なくなっていた気がする。あまり気にもとめていなかったが、こうして一人たまった仕事を処理しに来ていたのだとしたらと相田は罪悪感を感じた。

「…どうして?」

白河のそばから離れたのか。一人で仕事をしだしたのか。そんな意味を込めて尋ねた言葉に、書記は少し隈のできた目をしゅんと俯かせた。

「…俺の、たいちょが、も、俺のこと、しらないって…。」

書記の親衛隊隊長は、確か書記の幼なじみだったはずだ。言葉足らずな書記をいつも兄貴肌で『しょうがないな』と支えていたはず。
書記も、まるで犬のように隊長にひっついていた。

書記の言葉に、相田はそうですか、と口をつぐんだ。そのまま、黙って自分の席で言われた書類を探して仕事にかかる。


だが、ここでも自分の部屋と同じ事が起きた。


書類作成のために必要な資料などが、わからない。必死に探して、やっとの思いで仕上げたそれを手に立ち上がると書記が相田に声をかけた。

「…ふくかいちょ、早く気付くといいよ。おれ、やっと。ちょっと、遅かったけど、頑張る…」
「…これを届けたら、戻ります。一緒にやりますよ。」

書記の言葉に返事をした相田に、書記はほっとしたように力なく眉を下げて笑った。


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