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3

そんな日がしばらく続いたある日、暖かくなってきた気候のせいかご主人様は部屋の窓を10センチ程開けて網戸にするようになった。
防犯のためそれ以上は開かないようにロックされてあるが、猫一匹なら余裕で通れる。
ご主人様は気付いていないが、網戸は枠に沿って実は裂けておりそこから外に出られそうだった。
私は無性にコウガに会いたくなり、するりと裂け目を抜けて外に飛び出した。


コウガは、どんな顔をするだろうか。


驚き飛び上がるコウガを想像してうきうきとしながら初めてコウガと出会った近くの小さな公園へと駆けた。

公園に着くと、キョロキョロと辺りを見渡す。鼻を上げてひくひくとコウガの匂いを探る。
左奥から匂いがした。だが、コウガだけではない。仲間だろうか、違う猫の匂いがコウガと同じところから漂ってくる。
なんとなく嫌な予感を抱きながら匂いの方へ歩き出した。



いた。



匂いを辿りかさりと木陰から顔を出すと、少し先にコウガを見つけた。だが、いつもと違う雰囲気に飛び出すのがはばかられた。

コウガは、臨戦態勢に入っていた。

コウガの目先に、一匹の白と黒の斑猫。恐らく先ほどコウガの匂いと共に漂ってきた匂いの相手だろう。
私は息を潜め、二人の動向をじっと見た。

斑猫がにゃおーんとイヤらしい鳴き声をあげてコウガにじりじりと近付く。コウガは少しずつ後退しながら毛を逆立てて相手を威嚇していた。

「コウガぁ、いい加減諦めろよ〜。な?悪いようにはしないからさ、大人しく乗らせろって」
「やだ!ミツル、嫌い!くんな!」

乗らせろ?何の話だ?

ミツルと呼ばれた猫はベロリと舌なめずりをしてコウガを見据えた。

「いいじゃん、別に。オス同士なんだし困ることないっしょ?お前だって、誰だっけ?なんかどっかの家猫にご執心で発情しっぱなしなんでしょ?お互い発散できるしいーじゃん♪」
「はつじょーなんか、してない!それ以上近寄るな!近寄ったら…」

なん、だって?
コウガが、発情?

木陰で話を盗み聞きしながら、ぐるぐると考える。私の知る限り、コウガは私以外の家猫に知り合いはいないはずだ。コウガのことだ、もし他にも仲のよい猫がいたなら必ずその話をしているはず。何より、コウガはほぼ毎日私のところへ来ていたのだ。

つまり、あのミツルという猫の言うコウガの執心している家猫とは…



自分でだした答えにかあっと体が熱くなり、一気に発情したのがわかる。だが次の瞬間、ミツルが素早く駆けだしたかと思うと激しい争いが始まる。だが、ほんの一瞬の隙をついたミツルがあっという間にコウガを組み敷いた。

「にゃあー!にゃああう!」

弱点である首の後ろに噛みつかれ、身動きできぬまま鳴き声でミツルを威嚇する。

「近寄ったら、なんだって?ほらほら、言ってみろよ。」
「やああ、やだあああ!離せっ、離せよう!」

必死に振り解こうとするもがっちりと押さえ込まれ、にあ、にあと力なく鳴いて抵抗するしかできないコウガにミツルは満足げに笑い腰を押し付けた。

「だいじょぶ、すぅぐ気持ちよくなるからね〜♪」
「やだ、やだぁ…!にゃあ…、リクトぉ…」


目の前の出来事に驚きのあまり固まっていた私は、コウガが力なく呼んだ私の名前に弾丸のように飛び出した。

「コウガッ!」

勢いをつけたまま、コウガの上にのしかかるミツルに思い切り体当たりをする。ミツルは「フギャッ!」と間抜けな声を出してゴロゴロと転がった。

「な、なんだテメエ!」

突然現れた私にミツルが驚き毛を逆立てて威嚇する。
私は家猫のため、喧嘩などしたことがない。だが、少しも恐怖など感じない。むしろ、怒りにより逆に相手を殺さんばかりに威嚇する。

新入りの、初めて見る相手に転がされプライドが傷ついたのだろう。ミツルが起き上がり私に対して攻撃を仕掛けてきた。

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