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そうなのである。
初日に、二人を自宅まで送り届け、最後のお見送りの時にぐずる紫音に晴海が約束したあの言葉。
『毎日朝昼晩とメールをするし、紫音が用事のないときは会いにくるから』
それに焼き餅を焼いた紫堂は二人が帰ってきてからのこの二週間、用事を詰めまくって二人を会わせないようにしていたのだ。
元々その間は海の家でバイトをすると言っていた二人なのだが、双子の都合のいい日には休みをもらう手はずになっていた。だが、今の今まで結局一日も会えずじまい。そこで二人は、わざと学校に戻らなければならない日から一週間、海の家の女将さんに四人で行くと約束を取り付けていた。
普通に誘えば紫堂の邪魔が入るのは分かり切っている。ならばいなくなる日を見計らって自分たちが『バイトに行く』と言えば双子も行きたがるのではないかと踏んだのだ。
息子に甘い紫堂のことだ、双子が自分たちがいない間に二人きりで学校という寂しい思いを味わうなら苦渋を飲んで決断するに違いない。
「…り、梨音も、行かないか。」
「え?いいの?僕も行っていいの?」
「むしろイかせた…いや、き、来てほしい。いやか?」
言葉の意味をはき違えて思わずぽろりと本音を出した克也は慌てて言い方を替える。
「パパ、僕行きたい!ねえ、お願い!行ってもいいでしょ?」
「だ、だめだだめだ!いいか、海なんて飢えた野獣どもの巣窟なんだぞ!そんなとこに…」
絶対にダメ、と言いかけて梨音の顔を見た紫堂はうと言葉に詰まった。眉を下げてうるうると目に涙をためてじっと見つめられ、ちくちくと胸が痛む。
いや、それでもだめだ!こんな可愛いりーたんが海に行ってバイトだなんて…と、心を鬼にしてきっぱりと許可をしないことを告げようとしたのに先に口を開いたのは梨亜だった。
「梨音、紫音。きちんと克也君と晴海君、それに向こうの方の言うことを聞いて、しっかりお仕事できる?」
「う、うん!」
「梨亜!」
「あら、いいじゃない。この子たちは今までバイトなんてしたことがないんだもの。これから先、社会に出るにあたって色んなことを経験しておくのは悪い事ではないわ。きっとこの子たちにもいい経験になると思うの。克也君、晴海君、二人をお願いできるかしら」
「もちろんです」
「じゃあ、お願いね。梨音、紫音、きちんとお勉強してくるのよ。」
真っ青になって阻止しようとした紫堂に口を出す隙も与えずに、梨亜が克也と晴海に話を振る。梨亜の許可に、何より輝いた顔をしたのは梨音と紫音で、二人とも本当に嬉しそうに目を輝かせ梨亜に抱きついた。
「お母さん、ありがとう!」
「ママ、ありがと〜!僕、頑張ってお仕事してくるね!」
「ええ、二人の成長を楽しみにしているわ。」
三人で抱き合うほほえましい光景に、真っ白に燃え尽きた紫堂が頭を項垂れていた。
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