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ふたりから双子を半ばひったくるようにして紫堂が自分の腕の中に閉じ込め、しっしっと犬でも追い出すかのような仕草をする。
「パパ、…先輩の事、嫌い…?」
「お父さん…晴海先輩にそんなことしちゃやだ…」
腕の中の双子にうるりとした目で見上げられ、今度は紫堂が罪悪感と嫉妬に心で涙を流す。そんな紫堂を梨亜がそっとたしなめる、と仲の良い家族を目の当たりにして晴海と克也は頬を緩ませた。
「それじゃ、また。」
「…うん。先輩、またね。」
手を上げた克也に梨音が笑顔で手を振る。
「またね、紫音ちゃん。」
「せんぱい、またね。絶対、絶対お電話してね。」
同じく手を上げて微笑んだ晴海に、紫音が泣きながら無理に笑顔を作って手を振る。
背を向けて、歩き出したその時
「おい、赤髪の。」
紫堂が歩き出す二人を呼び止めた。
「もってけ」
振り向いた克也に向かって、ポケットから取り出した何かを投げる。慌てて受け取った克也はその手の中にあるものを見て首を傾げた。
「…棒付きキャンディー…?」
紫堂が克也に投げたものは、紫堂が会ってからずっと口にしていた棒付きの飴だった。
「俺がずっとそれを舐めてんのは、なんでだか考えな。」
そう言ってにやりと笑い、隣にいる梨音の頬に軽くキスをする。その仕草を見て嫉妬よりも先に克也が思ったこと。
…たばこ、か。
今日、さすがに二人の家では吸ったりはしなかったが特有のにおいは克也の体に沁みついていたのだろう。
真っ赤な顔をして困ったように自分を見つめる梨音と、にやにやと笑う紫堂を見て克也は心底参った、完敗だと思った。受け取った飴の包みを取り、飴を口に含むと紫堂に向かって深々と頭を下げる。
「「ありがとうございました!」」
二人そろって大きく手を振り、今度こそ木村邸を後にした。
二人きりになった道中、克也は飴を舐めながらふとした疑問を口にした。
「なあ、晴海。そういやなんでお前は飴をもらわなかったんだ?」
「あれ?克也気付いてなかった?俺、紫音ちゃんとちょっと仲良くなった時から禁煙したんだよ。だって、紫音ちゃん初めて屋上に来たとき煙草の煙にすげえ嫌な顔したもんね。」
好きな子には、嫌な思いさせたくないのは基本でしょ。
そう言う晴海に克也はここでも負けていたかと内心項垂れる。そんな細かい事までちゃんと見ていたんだな。それに引き換え俺は、梨音を好きだと言ったくせに何も考えずにタバコ吸ってたなあ…
絶対にやめてやる。
そう決意してふと気づく。
「…お前、いつからやめたって?」
「え?だから紫音ちゃんとちょっと仲良く…」
そこまで言って、晴海が『あ』という顔をした。引き換え、克也はにやりとあくどい笑みを浮かべる。
「そうか、そんなに前からだったのか。」
「え、なに、なにが?ああ〜、克也、早く帰ろうぜ!紫音ちゃんたちがメールまってるかもよ!」
真っ赤になって一人慌てたようにスタスタと早足で歩きだす晴海にくくっと笑い小走りで隣に並ぶ。
そんな前から惚れてたのかよ。こっちも気付かなかったぜ。
基本いつもへらへらとつかみどころのない晴海が、こんなにもストレートに自分の感情を表すだなんて。初めてみる幼馴染の動揺した姿に自分と同じ一人の恋にばかになった男なんだなあとなんだか嬉しかった。
「大事にしなきゃな、お互い」
「…だね」
長居していた聖であたりはすっかり夜の闇だ。二人並んで歩く道の夜空を見上げる。
丁度二人の真上に小さく瞬く星が二つ。それが何だか紫音と梨音に見えた。
「…の前に、あのオヤジも何とかしてえ所だな…。」
「…勝てる気がしねえよ、俺…」
そして、その仲良く並ぶ小さな星のちょうど真横に、大きく輝く星を見つけてあれはきっと紫堂に違いない、と二人でため息をついた。
認めてはくれたものの、こちらへの嫉妬も半端ない。
…とりあえずは、夏休み。あの双子を誘って海にでも行こう。
妨害だけはされないようにしないとな、と固く心に誓う二人だった。
end
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