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7

家に入ると、紫音が母の手伝いのためかかわいらしい猫の絵の描いたエプロンをつけて一生懸命テーブルに料理を運んでいるところだった。

中に入ってきた晴海を見るなり顔を真っ赤にしてもじもじとエプロンをいじる。恐らく、自分の格好が恥ずかしいのだろう。


鼻血出そうです。


内心よだれを垂らす自分を必死に押さえ込んで紫音に近づき、にこりと微笑む。

「先輩…、あの、あの、」
「お手伝いしてるの?エプロン、かわいいね」

晴海の言葉を聞いて嬉しそうにはにかむ紫音の頭をなでる。晴海は思わず携帯を出して写メりたかったが、携帯を取りだそうとポケットに手を入れた瞬間に後ろからただならぬ殺気を感じて紫音をなでる手と携帯をつかむ手を両方引っ込めた。

「しーたあああん!お手伝いしてんのかああ!えらい、えらいぞおお!パパの選んであげたエプロンよく似合ってるよおお!」

そう叫びながら紫音にがばりと飛びついたのは言わずもがな紫堂で、紫音が真っ赤になりながら紫堂の服をきゅうと掴み肩越しにちらちらと晴海を見る。

やはり先ほどの殺気は紫堂だったか、と納得するも紫音を抱きしめながら晴海をちらりとどや顔で見た紫堂に晴海は心の中で中指をたてた。



その後、六人で表向きでは和やかに始まった食事会。紫堂がわざと二人の目の前で梨音と紫音にあ〜んをして食べさせたり、食べさせてもらったり。それに嫉妬で煮えくり返りそうな思いをしたのは言うまでもない。



「先輩、今日はありがとう。すごく楽しかった!」

玄関前でにこにこと笑う梨音に克也も笑みを返す。

「俺も楽しかったぜ。」

そう言って頭を軽く撫でると頬をピンクに染め本当に嬉しそうに笑う。頭を撫でる克也の手を取って自分の頬に持っていく梨音を本当に愛おしく思う。

「長くお引止めしちゃってごめんなさいね。本当に送らなくていいの?」
「はい。道は覚えましたし、大丈夫です。二人でぼちぼち駅まで歩いて帰ります。」

食事会を終えた後、二人をそれぞれの家に送ると梨亜が提案したのだが克也と晴海はそれを丁重にお断りした。食事をごちそうになった上にそこまでさせてしまうのは申し訳ない。何より、何か月かぶりに会えた家族をこれ以上自分たちの事で煩わせてはいけないと遠慮した。申し訳なさそうに謝る梨亜に、克也と晴海がありがとうございます、と頭を下げる。その梨亜の後ろで、大きな体を隠れないのに小さくちぢこませすんすんと泣いている紫音がいた。

「こおら、紫音。泣いちゃダメでしょ?先輩、困っちゃうわよ。」
「だって、だって…」

お兄ちゃんである梨音があっけらかんとしているのに対し、紫音は食事会が終わってからずっと泣きそうな顔をしていた。そして、二人がお暇すると立ち上がった途端にぐずぐずと泣き出し今に至る。

「せんぱ、さみしい…。会えないの、やだよぅ…」
「紫音ちゃん」

これから、晴海たちは自分たちの実家へと帰る。紫音と梨音は、母と父が日本にいる間は実家にいることになっている。恋人同士になってからそんなに長く離れたことのなかった紫音は、土壇場になって急に晴海と会えなくなるのがさみしくてたまらなくなったのだ。


こんなこと言っちゃいけない、泣いたりしちゃいけないと思うのに全然体が言うことを聞いてくれなくて。
先輩が困るのをわかっていながら、止まらない涙をぐしぐしと拭いながら『行かないで』と言ってしまった。


「ごめ、ごめ、なさ、せんぱ…、おれ、悪い子…」
「会いに来るから」

しゃくりあげながら謝罪をする紫音の頭を晴海が撫でる。涙を拭うために伏せていた顔を上げると、晴海が優しく微笑んでいた。


「紫音ちゃんが寂しくない様に、毎日毎日、朝昼晩って、後寝る前もメールと電話する。それで、紫音ちゃんが何もご用事がない大丈夫な日は必ず会いに来るから。俺も寂しいよ。紫音ちゃんと今までずっとずっと一緒にいたから。ちょっとでも離れちゃうの寂しい。でもね、紫音ちゃん。お父さんとお母さんは、もっともっと紫音ちゃんとずっと離れていたからさ。ずっと寂しかったと思うよ?またしばらく会えなくなっちゃうんだから、今はお父さんとお母さんにうんとうんと甘えな、ね?そんで、また俺のところに戻ってきたときはさ。今度は俺にうんと甘えてね。…俺も、紫音ちゃんと会えなくて寂しかった分、うんと紫音ちゃんにあまえるからさ。」
「…!う、ん…!うん…!」

紫音は晴海が言い終わると同時にがばりと抱き着いた。肩口にぐりぐりと顔を埋め、離れてしまう分のチャージだとでもいうようにぎゅうぎゅうと抱き着く。

「先輩、お電話してね。メールもしてね。待ってる。おはようと、お休み、待ってる。」
「うん。約束。」

目の前でゆびきりげんまん、と小指を絡め嬉しそうに笑う紫音を見て、紫堂がぎりぎりと口の中の飴を噛み。ばきん!と割った。克也は、晴海に抱きついた紫音を見てちらちらと梨音の方を見る。

「…先輩、僕は寂しくないのかなって思ったでしょ。」
「!い、いや、、その、あの…」

ぴしゃりと心中を当てられ、克也がきょときょとと視線をさまよわせる。それに梨音は小さくくため息をついて克也の服の裾を指でつまんだ。

「…僕だって、さみしいもん。でも、お兄ちゃんだから。しーちゃんが泣いてるのに、僕もなんて…」
「梨音」

小さな声でぽつりとこぼした本音に、克也は服をつまむ梨音が愛しくて仕方がなかった。すそを掴む指を取り、手のひらを広げさせて指を絡め握りしめる。

「俺も、メールするから。梨音が寂しくない様に、楽しくお父さんたちと休みを過ごせるように、毎日朝昼晩、連絡するから。」

克也の言葉に梨音が涙を浮かべたままに微笑む。そんな梨音の頭を引き寄せ、おでこにキスをしようとした克也は梨音の後ろから放たれる感じたことのない殺気にそのまま頭を撫でるにとどまった。

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