×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




晴海と紫音の場合

俺は今、人生で最大級に落ち込んでいる。なぜかって?それはあれです。かわいいかわいい紫音ちゃんが、部屋に閉じこもって出てきてくれないからです。

メールも電話も、ことごとく無視。物音一つ立てずに、もう天照大神様みたいに固く閉じられた部屋は一向に開く気配がない。

「紫音ちゃ〜ん…」

扉から呼びかけるのもこれで何度目だろうか。返事がないのにため息をついて扉を背にずるずるとしゃがみ込む。


事の発端は数時間前。俺が、じゃんけんで負けたことから始まった。屋上で、いつものメンツで集まって紫音ちゃんと梨音ちゃんの来るのを待っていた時。下っ端の一人が、

『じゃんけんで負けたら、一番に勝った人の言うことを何でも聞くこと!』

と言い出した。面白そうだから乗ってはみたものの、まさか自分が負けるだなんて思ってなかった俺はチョキの形のままの手をじっと見つめたさ。

しかもこともあろうに、勝ったやつが下した命令はなんと、

『恋人に嫌いって嘘をつくこと!ちょうど今日はエイプリルフールだし!』

初めは冗談じゃねえ!って怒ったんだけど、下っ端のそいつに

『そんなこと言っちゃやだって泣いたりしたら超かわいいんじゃねっすか〜?』

なんて言われてちょっとかわいいかもって意地悪な気持ちが出ちゃって。実践したんだよね。


いつもの様に紫音ちゃんの部屋を訪ねると満面の笑顔で出迎えてくれた。そして、部屋に入る前にさっそく罰ゲームの嘘をついた。

「…俺、紫音ちゃんのこと、嫌い。」
「…!?」

笑顔だったその顔が、一瞬にして絶望した顔になって。あ、やべ、早く嘘だって言わないとって焦った瞬間。

「ひ…っ、ひぐ…っ!う、うわあああああ!うわあああああん!!」
「紫音ちゃ…!?」
「わああああ!やだあああああ!」

わんわん大声で泣きだして、バタバタと駆けて行ったかと思うと自分の部屋に閉じこもってしまった。
それからは、今の通り。何を言っても、何をしても答えてくれない。向こうで動く気配もない。俺はもうマジ泣きしそうになってずっとずっと部屋の前で頭を抱えていた。


あれから何時間経っただろうか。寝ちゃってるのかな。お腹すいてないかな。頭痛くなってないかな。色々心配ばかり浮かんでくるけど、もしかしたら俺がここにいると出てこれないのかもしれないと思った。せっかくかわいい飼いネコちゃんになったのに、前の警戒心の強い野良ネコちゃんに戻してしまったかも知れない。
自業自得でズキズキ痛む胸を押さえて、俺はそっと紫音ちゃんの部屋の前を離れた。


それから、俺はすぐに下っ端にやつらに頼み込んでダッシュで猫のぬいぐるみを集めてもらった。受け取ったぬいぐるみを手に紫音ちゃんの部屋に戻ると、まだ扉は固く閉ざされたままで。俺は集めたぬいぐるみ一つ一つに、メッセージを付けて転々と置いて行って洗面所に身を隠しながらそっと様子を伺った。

やがて、紫音ちゃんの部屋の扉がそっと開いて、紫音ちゃんがきょろきょろと辺りを伺いながら涙でぐしゃぐしゃになった顔をのぞかせた。ばれないように、そっと見守る。
紫音ちゃんは部屋を出てすぐのぬいぐるみに気付いてくれた。

『泣かせちゃってごめんなさい。』

一つ目のぬいぐるみを抱き上げて、メッセージを読む。
少し歩いて、今度はソファの上。

『あれは、嘘です。エイプリルフールなので嘘をつきました。』

二つ目。
そして顔を上げて、テーブルの上。

『紫音ちゃんのかわいい泣き顔が見たかったんです。』

三つ目。
そして、洗面所に続く廊下の上。

『まさかあんなに泣かせちゃうとは思わなかったんです。ほんとにごめんなさい。』

洗面所の扉を開けて、猫のぬいぐるみを顔の前に掲げた俺を見つけた。

「今から言うことは嘘じゃないです。紫音ちゃん、大好き。嘘ついてごめんね。泣かせちゃってごめんね。」

ぺこり、とぬいぐるみと一緒に頭を下げる。えっく、えっくとしゃくりあげる音が聞こえて顔を上げると、案の定また泣いちゃってる紫音ちゃんがいた。

「せ…、ぱ、、…っ、ほん、と…?も、嘘じゃ、ない…?」
「うん。ほら、見て。時計。今、0時を回ったよ。つまり今日はもう4月2日。エイプリルフールはおしまい。紫音ちゃん、ごめんね。好き。大好きだよ。」
「ひ…、う、う…っ!うえ、うえええん…!」

ぬいぐるみを抱いたまま俺の胸元に顔を埋める紫音ちゃんをぎゅっと抱きしめる。

「い、意地悪言う先輩、きらいぃ…!でも、でも大好きだから、もう嘘ついちゃ、やだあ…!わああん…!」

ボロボロ泣きながら叫ぶ紫音ちゃんに、もう愛しさとかわいさがいっぱいいっぱいになっちゃった。何度も何度も謝って、キスをして、抱きしめた。

その日、一緒に寝たんだけど起きてからもペタペタと俺の後をついて回る紫音ちゃんに、俺はやられっぱなし。もう一回、嘘ついちゃおうかな…なんて邪な気持ちがわいてきたんだけど…


事を知った梨音ちゃんが般若のようなお顔をして俺を睨みつけて次の日から一週間、俺が土下座をして謝るまで紫音ちゃんに近寄らせてもくれなくなったから二度とくだらない嘘はつくまいと心に決めた。


end

[ 38/70 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]


top