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2

そうして、やっとの思いで自分に好意を持ってもらえたのに。
純一は浅はかな自分の行為をひどく後悔した。

「…良樹さん、来てくださってありがとうございます。」

涙を流す良樹に、優しく微笑んでその涙を拭う。

「いいんですよ。無理はしないでください。言ったでしょう?…私は、あなたを愛しているんです。体なんて繋がれなくても…」
「違います」

純一の言葉を遮った良樹の言葉に純一は困惑した。何が違うのだろう。ああ、もしかしてもう終わりなのかもしれない。自分の気持ちこそ重いのだろうか。
…仕方がない。先を望んで、その関係を壊してしまったのは自分。もう二度と会えなくても、この人への想いは消えはしないだろう。

悲しげに微笑む純一に、良樹はもう一度軽く口づける。

「…私は、元々女性としかそう言う行為をしたことはありません」

しばしの口づけの後、良樹がポツリとつぶやいた。

「自分がまさか同じ男性であるあなたに恋い焦がれるようになるなんて、と初めは困惑しました。ですが、あなたの優しさに、その人柄に、同性であると言うことなど関係なく強く惹かれてしまった…。
…正直に白状しますと、私だって今日はやましい下心がなかったわけじゃない。このイブの夜、聖なる夜だからこそ、もう自分を偽るのはやめようと。…こんな私を待ち続けてくれたあなたに、身も心も捧げようと決めていたんです。」

良樹の言葉に、純一は全身がかっと熱くなるのが分かった。自分の想いを、受け入れてくれた。それだけではなく、その先を進んでくれようとした。その事実に、胸が熱く満たされる。だが、そこまで言うと良樹はぐっと唇を噛んでまた涙を溢れさせた。

「…良樹さん?」
「先日、私があなたの店にお邪魔しに行った時です…。あなたが少し離席した間に、あなたの店の常連客だと言う青年がスタッフの一人に話している声が聞こえてしまって…」


『そういやマスター、最近遊んでるって噂聞かないね?』
『あ〜、そうっすね。本命できたみたいっすよ』
『なんだ〜、残念。また一回相手してもらおうと思ってたのになあ。お願いしてもダメかな?マスター遊び人だからさ〜、上手いんだよね〜。上も下も』


「…あなたが、誰とどう経験していたのかが問題なんじゃない。ただ…、私には男性との経験はありません。それを聞いて、私は、あなたを満足させることが出来なかったらと…。そのせいで、あなたに幻滅されるのが怖かった…!」

そう言って震えて泣く良樹が愛おしくて仕方がなかった。
良樹は、純一は自分の考えとは全く別の事で悩んでいたのだ。

ノーマルだから、男同士で体を繋げるのを戸惑っていたんじゃない。自分の未経験で、純一に嫌われるのを恐れて戸惑っていたのだ。

純一はその言葉だけで、今までの自分が救われたような気持ちになった。あの、忌わしい出来事から、人を愛することに臆病だった自分。かりそめの愛で様々な相手を渡り歩いてきた自分。それら全てを、この人は丸ごと包んでくれたような気がした。

涙を流す良樹を、純一がそっと抱きしめる。

「…良樹さん。ありがとう…」

そして、今度は自分からその柔らかな口に口づける。

「…経験があるなしじゃない。私は、あなたを愛しています。それだけで、心が満たされるんです。あなたに抱かれる、あなたを抱ける。どちらでもいい。あなたと、という事実だけで幸せなんです」

良樹は純一の言葉に目を一度大きく見開く。目の前で、涙を浮かべながら微笑む純一を見て、同じように微笑みを浮かべた。

「…愛しています、純一さん。私も、あなたがここにいるというそれだけで幸せです」


ゆっくりと、二人でベッドに沈み込む。
どちらともなく上に、下にと入れ替わりつつ、二人は長く愛し合った。


翌朝、寄り添って眠る愛しい人の寝顔を見て、純一は静かに涙を流す。


生まれて初めて迎える、愛する人との朝。
それは、この上ない幸せに満ちた涙だった。


end

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