上杉君とクリスマス
「なあなあ、上杉ー!クリスマスは空けといてな、絶対やで!」
「何回も言うなや、わかったって」
愛しの上杉にクリスマスの予定を頼み込む。やっぱ恋人同士の一大イベントやし!その日、珍しく監督が1日俺ら野球部に休みをくれた。こんなチャンス二度とない。まだ3週間も先やけど、俺はもうその日の事で頭がいっぱい。
休み時間のたびに同じことを繰り返す俺に上杉がちょっとウザそうな顔してる。もう、照れ屋さん!
毎日毎日、クリスマスはどこ行こう?とか何したい?とか、その日のデートのことばっかり話してた。
「お前、いい加減にしろや!」
そんな毎日が一週間続いたある日の部活の休憩中。いつもみたいににやにやしながらクリスマスの話をした俺に上杉がキレて怒鳴った。え、なんで?
「毎日毎日、同じことうっさいねん!ていうかな、それより先に考えなあかんことあるやないか!お前来週試合やってわかってるか!?」
「わ、わかってるよ!だからちゃんと練習してるやん!」
確かに、来週大会ではないけど大事な練習試合がある。俺かてアホやない。だからクリスマスの話はどんだけ楽しみでも休憩中にしか話してない。せやのになんでなん?
なんで怒るん?
「ほんならちゃんとそれに集中しろや!今はクリスマスのことなんかどうでもええやろ!」
上杉の言葉に、俺は唖然として固まってしもた。なにそれ。
「どうでもええって、なに?」
「そのままやんけ!今はクリスマスより試合の方が大事やろ!」
上杉に怒鳴られた内容に、俺はめっちゃ泣きそうになった。
「…上杉の、あほー!」
「!おい、春日!待てや!」
走り出した俺を引き止める上杉の声が聞こえたけど、俺は振り向く事はでけへんかった。
『クリスマスより試合が大事』
わかってるよ。俺かて遊びで野球やってるわけやない。試合いっこ勝つのがどんだけ大変か、どんだけ大事かちゃんとわかってる。でもな、俺は同じくらいお前と過ごすクリスマスも大事やねん。毎回うざいくらい聞いてまうんも、付き合って初めてのクリスマスが大事やったからやねん。
その日のその後の練習は、散々やった。監督にめっさ怒られて一人居残りで素振りと片付けを命じられて、真っ暗なグランドで黙々とバットを振り続けた。
「…お疲れ」
「…おう」
重い足取りでグランド整備をすまして部室に戻ると、入り口の所に上杉がおった。掛けられたお疲れの声に、顔を逸らして一言返すんが精一杯。
部室に入ったら続いて上杉も入ってきた。めっちゃ気まずい。
「…あんな、春日」
上杉に背中を向けたままユニフォームを着替えようとしたら、上杉が口火を切った。なんやろう。また説教されるんかな。
怖くて、よう振り向かんかったら上杉が俺のすぐ後ろに来る気配がした。
「…さっきは、ごめん。言い過ぎた。けどな、お前、休憩中にしかクリスマスの話はしてないつもりでおるんやろうけどな。練習中ちょっとにやけてるん自分で気付いてるか?」
俺は言われたことに驚いて上杉の方に振り向いた。
「え、うそ。俺、顔に出てた?」
「めっちゃ出てた。周りの奴らが気付くくらい。」
上杉に頷かれて、うわあ、って思った。そ、そら、練習してても、ふとしたときに考えてはおったけど!
「あんな、春日。クリスマス、監督が用事があるからって平日やしって、珍しく1日だけ部活休みにしてくれたやろ。せやけどな、来週の試合の出来次第では休み取り消しにするって言うててん。…春日見てな、『あいつ何浮かれとるんや』って。チームの要であるキャッチャーのくせに試合に集中でけへんなら、休みやらん方がええかって。お、俺、監督からそれ聞いて焦って。だって、俺かて、お前とクリスマス過ごしたいんやもん。
だから、だから…」
上杉が最後まで言う前に、俺は上杉に抱きついた。
「春日…」
「ごめん!ほんま、めっちゃごめん上杉!浮かれてました!」
ぎゅうぎゅう上杉を抱きしめてとにかく謝り倒す。そら上杉怒るわ。俺、あほやった。上杉の気持ちも考えんと、周りも見えんと。
「お、俺も、言い方悪うてごめん。何が何でもええ試合して勝たなって…。先のクリスマスより、まずは試合に集中せなって…」
「うん、ほんまごめん。俺、キャッチャー失格や。まずはやることやってからやんな。」
自分のせいで大事な試合落としてしもたら楽しめるはずもない。
ああ、ほんまに俺ってどないしょうもないやつ!めっさ落ち込むと同時に、さっきの上杉の言葉がめっさじわじわ染みてきた。
『お前とクリスマス過ごしたいんやもん。』
上杉の口からクリスマスのこと、はっきり聞いたんは初めてや。ほんまは、楽しみにしててくれたんやなあ。
俺が謝ったら、上杉はやっと安心したように肩の力を抜いて俺に抱きついてすり寄った。
何この子!デレかわいい!
仲直りもできたし、ゲンキンな俺はとたんに上杉に対してムラムラとエロい気持ちがわいてきて。
「…なあ、上杉…キスしたい…。してもええ?」
首筋に顔を埋めながら呟くと上杉がびくって跳ねて、両手で俺をぐいと押した。
「…あかん。」
「なんで?なあ、今めっちゃ上杉にキスしたいねん。なんであかんの?」
眉を下げてそう言うたら、上杉は真っ赤な顔をして俯いてあー、とか、うー、とか呻いた。困ってる様子もかわええなあ。
「…今したら、俺、我慢でけへんもん…。俺な、お前のユニフォーム姿、めっちゃ好きやねん。ユニフォーム姿のお前、いっちゃんかっこいいから。今のお前に、キ、キスされたら、俺、心臓壊れてまう」
真っ赤な顔でそんなん言われたら。
「―――――っうえすぎいいいい!」
「うわあああ!」
ああもう、なんでこんなかわいいの!俺の心臓が壊れてまうわ!
ぎゅうぎゅう抱きしめて、ほっぺにちゅっちゅとキスをする。ほんまはめっちゃ口にしたい。俺の方が我慢できません。せやけど、がまん。お楽しみは、試合が終わってから。
「絶対勝とな、上杉。」
「おう、頼りにしてるで、スラッガー。」
翌日から人の変わったように練習に打ち込む俺を見て、周りの奴らは雨でも降るんとちゃうかって言うてきた。俺をなんやと思とるねん。
「さあ、試合の勝ちをがっつり掴んで上杉のハートもがっつり掴むで!」
「あほか」
そんなもん、もうとっくに掴んどるわって笑う上杉に、俺、撃沈。
はよこい、クリスマス!!
end
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