ちびとハロウィン
今日はハロウィン。とはいえ俺たちにはなんの関係もないので今までとくに何かやるとかなかったんだけど、今回は違った。なぜか。
「いーぶー!はーるー!」
にこにこと笑いながら吸血鬼の格好をしてお菓子のいっぱい入ったバケツを持ってとてとてと駆けてくるこのちびっこ。ご存知鉄二のせいだ。
鉄二の保育園の先生が、ハロウィンを保育園でやったらしく鉄二が保育園でしたその格好をいたく気に入り、俺たちにも見せたいと言って家にその格好のまま来てくれたのだ。
ちびっこ吸血鬼に執事もメイドもきゃあきゃあと騒ぎっぱなし。屋敷中の皆が鉄二を見かけるたび呼びとめて、『トリックオアトリート』を言わせるために鉄二のバケツはお菓子がパンパンなのだ。ま、本人はにっこにこ超喜んでるけどね。
「はる、といっくおあといーと!」
またこれがちゃんと言えてないんだわ。
「ふふ、はい、お菓子。鉄二、バケツにいっぱいじゃん。」
春乃の差し出した手作りクッキーを嬉しそうに受け取りいそいそとバケツにしまう。ああ、慌てるから他のお菓子が落ちたじゃん。落ちたお菓子を拾ってはまた詰めて、一生懸命バケツに詰め込む鉄二が面白くてニヤニヤしてみてるとふと顔を上げた鉄二とばちりと目が合った。
「いぶー!といっくおあといーと!」
俺の元にやってきて、手を差し出しながらにこにこと笑いそう言う鉄二にいたずら心がむくむくと湧き上がる。
「お菓子はねえよ〜」
ほんとは用意してるけど、座ってるソファの後ろに隠して両手をひらひらと見せてやると鉄二が口をとがらせて俺の膝の上によじ登ってきた。
「いぶー!おかち!おかちちょうらいよ!」
「だからないんだって」
ニヤニヤする俺にますます拗ねたようにぷくりとほっぺを膨らます。うは、めっちゃおもしれえ。
「おかちないの、めーでしょ!わるいのするよ!」
「やってみれば〜?」
いたずらするぞ、と脅してきた。鉄二のいたずらってどんなんかな。面白くて挑発すると、鉄二はますます頬を膨らませた。
そして。
「う、わ!」
なんと、俺の首元にかぷりと喰いついたのだ。
「ちょ、てつ、やめ…!」
く、くすぐってええええ!
そのままあぐあぐと甘噛みをする鉄二を慌てて引きはがすと、鉄二は『どうだ!』と言わんばかりのドヤ顔で俺を見た。
「おかち、くれる?」
そのままこてん、と首を傾げる鉄二にノックアウト。無言で真っ赤になってお菓子をおずおずと差し出す俺を見て春乃が爆笑したのは言うまでもない。
ハロウィンがちょっとだけ好きになった俺でした。
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