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ふたりの夏祭り

「いい加減機嫌直せって」


俺の言葉にちらりとこちらを見るもすぐに背中を向けて膝を抱える。
一夜が拗ねてソファの上でそうなってから、かれこれ一時間は経っているだろうか。
俺が小さくため息をつくとその肩がびくりと揺れた。ソファで小さくうずくまる一夜にそっと近づく。

「しょうがないだろ?過ぎちゃったことなんだから」
「だって、だって…」


先週の週末、近くで祭りがあった。それを知った一夜は嬉々として『行こう』と誘ってきたのだが、当日運悪く一夜は熱を出して寝込んでしまったのだ。しかも、しっかり祭りの二日間だけ。
熱があるくせに無理に祭りに行こうとする一夜を必死になだめてベッドに寝かせて、何とか治ったはいいものの自分のせいで祭りに行けなかったことにひどく落ち込んだ。しかも、だ。またタイミングの悪いことに、バイト先の友人に、彼女と行った祭りがいかに楽しかったかをこんこんと聞かされたらしい。


「…俺、自分が情けない。体調管理もできなくて、自分が誘ったくせにお祭り行けなくなって…。」


しゅんと落ち込む一夜をそっと後ろから抱きしめる。

「ばかだな。風邪なんて気をつけててもかかることあるって。な?また秋祭りがあるじゃん」
「でも、でも…和ちんの浴衣姿見たかった…」

一緒に屋台を回りたかった。綿飴食べる和ちんが見たかった。花火も一緒に見たかった。

そう言ってぐずぐず泣いて膝に顔を埋めてしまった一夜。

「ぐすっ…、恋人になって…、ずっ…、初めての、お祭りだったのに…、グス…」

幼なじみとしてじゃなくて、恋人としてお祭りデートしたかった。

そう言って泣く一夜が、とてつもなく愛しくなって。
俺は小さくうずくまる一夜に被さるようにして抱きついた。

「…一夜、ありがと。お前にそんなに思ってもらえてほんとに嬉しい。な、お前、そんなに俺が好き?」
「あっ、当たり前だよ!いつも言ってるじゃん、和ちんの事大好きって!」

俺の言葉を聞いて顔を上げて振り向いた一夜に、ちゅっと口づける。一夜はそれに目を丸くしてぽかんと口を開けた。

「じゃあさ、いつまでも背中向けないで。俺が好きなら俺を放っておかないでよ。祭りはこれからもあるけど、二人のこの時間は今しかないんだからさ」

にこりと微笑むと、一夜は途端に顔を真っ赤にしてがばりと俺を抱きしめた。

「うん、ごめん。ごめんね、和ちん。そうだよね。せっかく二人なのに、いちゃいちゃしなくちゃもったいないよね!」

さっき泣いたカラスがなんとやら。嬉しそうににこにこ笑いながら俺にちゅっちゅとキスを繰り返す一夜に、やれやれと内心苦笑いした。


その夜、花火を買ってきて、浴衣を着て二人きりの小さな花火大会。
来年も、二人で過ごせますように。


小さくはぜる線香花火に願いを込めた。

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