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春乃と夏祭り

「…なにそれ」


目の前に差し出された一枚の浴衣に怪訝な顔をして差し出す相手を睨みつける春乃。ものすごい怒りのオーラなのに差し出す相手は怯えるどころかへらへらと笑っているから驚きだ。


「何って浴衣?」
「いやん、はるのん!浴衣も知らないの?」
「知ってるよ!僕が言いたいのはお前らがなんでそれを僕に差し出しているのかって言うのとそれがなんで女物何だってことなの!」


そう。今晩は夏祭りだからと、いきなり春乃の部屋に一緒に行こうと押しかけてきたご存知一颯の悪友二人。


「え?似合うから」
「うん、似合うから」
「繰り返して言うな!!」

ただの祭りの誘いならまだいい。だがこの二人はあろうことか春乃にこれを着ろと大きな牡丹の描かれた淡い紫の浴衣を差し出したのだ。

「絶対着ないから。祭りも行かない」


ぷい、と膨れてそっぽを向く春乃。普通の奴らならここで春乃の機嫌を取ろうと必死になって謝るだろう。だが、それはあくまで普通の人の場合。この二人に関しては別だった。

「え〜?行かないの〜?俺らせっかくいい情報仕入れて来たのになあ。」
「そうそう。はるのんがめちゃ泣いて喜びそうな情報だよ〜?」

二人の言葉に、ぴくりと反応する。その反応を見逃さなかった二人はにやりとお互い目配せをした。


「おじょうちゃん、かわいいね〜!はい、も一つおまけ!」
「ありがとう」


にこりと微笑むとテキヤのお兄さんは真っ赤になって『もう一個おまけだ!』とリンゴ飴をもう一つくれた。受け取った少女は紫の浴衣の袖をひらひらと翻し、からころと下駄を鳴らして店をあとにする。

「さあっすがはるのん!超かわいい!めっちゃ似合う〜!俺らのセンス超イケてる!」

戻ってきた春乃の肩を抱き、春乃の持つリンゴ飴を受け取るのは笹岡。

「ささ、次はなんだっけ?たこせん?綿菓子?」
「綿菓子」

むすりとむくれながらも欲しいものを口にする。尖らせた口が何とも愛らしい、先ほどリンゴ飴屋でおまけをふたつもせしめた少女は言わずもがな春乃であった。

笹七コンビが春乃に教えた情報。それは、二人の知る神社の祭りでは、浴衣姿の女の子はおまけをしてもらえると言うものであった。
もともとお祭りが大好きで、特に祭りのときに売られる祭りでしか味わえない食べ物に目がない春乃はそれを聞いて無言で浴衣を受け取り完璧に着こなしてやった。
きつめの顔立ちに紫の浴衣がとてもよく似合う。サイドを編み込みし、浴衣と同じ牡丹の髪飾りを付ける春乃はどこから見ても美少女にしか見えなかった。

思った通りに浴衣を着てくれた春乃に、二人はにやけた顔が戻らない。

「おい、ちゃんと写真撮っとけよ?」
「合点承知!リンゴ飴舐めるとこは千円でもいけんじゃね?」
「いや、もうチョイ高めでいけんだろ」

学園で春乃は絶大な人気を誇る。そんな春乃の写真は実はとても高値で販売されているのだが、特にプライベートの写真は予約待ちが出るほどに人気だ。なぜなら春乃は自分のテリトリーには自分がよほど気を許したものしか入ることを許さない。

この二人はそれを利用してこうしてたまに小遣い稼ぎをしているのだ。

「何してんの。早くついてきてよ」

振り返る瞬間をこっそり激写して、はいはいと春乃に従う。
見返り美人、これも高く売れそうだ。


ありがとうございます春乃様、と心で手を合わせて拝む。


春乃の浴衣姿の写真を生徒手帳に入れている生徒を見かけ、笹七コンビが春乃に鉄拳制裁をくらうのは二学期が始まってすぐのことである。

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