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7

「…私?」
そしてそのことによりその場で一番に声を発したのは先ほどまで二人のやり取りを黙って見ていた恋ちゃんだった。なぜ自分の名前が出ているのか本気でわからないと言った風だ。それはうらら君も同じだったようで、うらら君を見ると恋ちゃんと同じように目をぱちくりとさせている。
「俺はっ!河内組に入って、ずっとずっとお嬢をそばで見てきました!そして、お嬢がよく口にされるうららさんは、お嬢の想い人なんだって気づきました!お嬢がどれだけうららさんを想っているか、お話を聞くたびに嫌って程伝わって、俺は、おれはっ、そんなお嬢が恋焦がれるなら絶対に結ばれてほしいって思って、なのに、今日来たら、うららさんにはすでに伴侶がいるとかっ!あんなに、あんなにお嬢が好きなのに、お嬢が報われないなんて…っ!なのにお嬢は優しいから、うららさんの相手のその咲夜って人をかわいいとか、うららさんにはもったいないとか、ご自身を殺してまでお二人を祝福するお嬢がけなげで、辛くて見てられなくって…!」
「…だから、咲夜から別れるように仕向けたの?」
こくんと頷く山下さんは、話しながらぼろぼろと泣き出していた。
「咲夜さんには申し訳ないと思いますっ!でも、でも、俺はっ、俺はお嬢に幸せになってもらいたいんですっ!うららさんっ!咲夜さんっ!どうか、どうかお嬢の気持ちを考えてやってくださいっ!」
言い終わると同時に山下さんはその場でうらら君と僕に向かって土下座をした。
…その姿を見て、僕思ったんだ。もしかしてこの人は、恋ちゃんの事を好きなんじゃないかって。
さっき言われたことを考えるととても悲しい。けれど、恋ちゃんのために体を張っているのは嘘じゃない。普通に考えて、山下さんが僕に対して取った態度は自分の親である河内組の組長の顔に泥を塗る行為だろう。そんなことをすれば自分がどうなるかなんてヤクザに入っていれば嫌でもわかる。
それでも、山下さんは恋ちゃんのためを選んだ。床に額をこすりつけたままてこでも動かない。
「こんの…ばかったれがあああ!」
「ぎゃああ!」
一向に顔を上げようとしない山下さんの頭を掴んで、一度その顔を上げさせてから思い切り床に叩きつけたのはなんと恋ちゃんだった。
鼻を打ち付けたんだろう、顔面を抑えて転げる山下さんの髪を再び掴んで、恋ちゃんは山下さんの顔に自分の顔を近づけた。
「お前、ずっとあたしを見てたって!?よくそんな嘘つけたな!」
「うっ、嘘じゃありません!俺はっ、俺はっ」
「いーや嘘だ!ずっとあたしを見てたんなら、あたしが誰を好きかわかってるはずだろうが!」
「だから、それはうららさんで...」
「そこがハナっから間違ってんだよ!あたしはうららの事なんかこれっぽっちも好きじゃない!」
鼻血を出し、口をポカンと開けたまま山下さんが止まった。恋ちゃんは舌打ちをして山下さんの頭を投げ捨てるように離す。そのせいで山下さんまた顔を床に打ち付けた。痛いだろうな。
「嘘だ、お嬢、お嬢は優しいから咲夜さんの前だからそんな嘘を」
「お前誰に向かって嘘ついてるとか言ってんの?」
「あ...いや」
見た目はとてもかわいらしいのに、まるで別人かと思うようなドスの利いた声で山下さんを黙らせる姿は半端なく覇気があってやっぱりヤクザの娘さんなんだなと思った。おどおどと目を泳がせる山下さんに恋ちゃんは盛大なため息をついて頭を抱えた。うらら君もさっきまでの冷たい空気はもう持っていなくて、やれやれって感じで恋ちゃんを見てる。
「恋、お前俺のどんな話してんの」
「別に普通の話よ。うららにテストで一教科負けたからアイス奢らされて悔しいとか、あんたがまだ付き合ってない時にあんたからの毎日のさくちゃん情報聞かされてそれがマジキモいとか」
「えっ、うららくん恋ちゃんにそんな話してたの?」
恋ちゃんに僕の話をしていただなんて聞いてなんだかすごく恥ずかしくてうらら君を問い詰めるとうらら君の顔も真っ赤でひどく慌てふためいていた。そんなうらら君を見るのは初めてで、嬉しくてくすぐったくて僕も真っ赤になる。二人そろって顔を赤くして俯くと恋ちゃんから『咲ちゃんはかわいいけどうららキモイ』とうらら君に向かって辛らつな言葉が飛んだ。僕の方がきもいと思うんだけど。
「そんな…、お嬢、あの…、ほんとに…?」
いまだに信じられないのか、山下さんが恐る恐る恋ちゃんに問う。恋ちゃんはもう一度大きなため息をついてから山下さんの頭を思い切り殴った。


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