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6

彼はぽかんと口を開けて真っ直ぐ見つめる僕を見ていた。多分予想もしなかったんだろう。彼の中では、僕はきっと下を向いて言うことに従うと思っていたに違いない。
…前までの僕なら、きっとそうしていただろう。自分の意見なんて聞いてもらえなくて、だれかに刃向かう何てことしたこともなかった。あの家族の中で、僕は従順な奴隷でいるしかなかった。
でも、今は違う。
うらら君が、僕を助け出してくれた。うらら君は僕の事を愛してると言ってくれる。僕の事を運命の人だと、僕のすべてが愛おしいと言ってくれた。うらら君はいつだって真っ直ぐだ。嘘なんてついたこともないし、人気者で、誰よりも優しくて、自分の言葉と行動に責任をもっている。
そんなうらら君が、愛してくれているんだ。そんな彼を信じないなんて、彼が何も言わないのに彼以外の言葉や評価に惑わされたりしない。僕を溺愛してくれると言うなら、僕は全力でその愛に溺れると決めたんだ。
「僕はうらら君だけを信じます。彼の口から聞かないのに人から聞かされる話に振り回されたりしない。...うらら君は、僕を愛する覚悟を決めてくれた。だから僕も彼に愛される覚悟を決めているんだ。釣り合わないって言われたって、身の程知らずだって言われたって、僕は一生うらら君のそばにいる。彼がいつか僕以外の人を好きになってしまっても、僕は一生彼を愛して生きていく。
僕の全てはうらら君に為にある」
誰がなんと言おうと、僕の心は僕だけのものだ。それを教えてくれたのはうらら君だ。
パチパチパチパチ!
後ろから急に大きな拍手が聞こえた。振り向くとそこには、キラキラと目を輝かせた恋ちゃんと、目を押さえて下を向くうらら君がいた。
「すごいすごいすごい!いいなあうらら!さくちゃんにこんなに強く愛されてていいなああーーーー!!!」
キャッキャとはしゃぎながら恋ちゃんは僕に抱きついてきた。突然のことに驚いてちょっとヨタってしまったけれどなんとか転ばないように踏ん張る。
「うららー!あんたさくちゃん大事にしなさいよー!ほらほら、返事は!?」
「...」
うらら君は下を向いたまま一切顔を上げようとしない。ちょっと不安になって顔を覗き込もうとしたら、そっぽを向かれてしまった。
「...ごめん...ちょっと待って...」
細い声で呟くうらら君を見て気がついた。うらら君、真っ赤だ。
「あんなの反則だよ、咲夜。あんなこと言われたら、俺、死んじゃうよ」
「うらら君...やだよ、死なないで。うらら君が死んじゃったら僕生きていけないよ」
うらら君が居なくなると想像しただけで泣きそうになった。うらら君の服をきゅっと掴んで見上げれば、うらら君は僕を思い切り抱きしめてくれた。
「死なないよ。死にそうに嬉しかったけど」
「うらら君」
彼が抱きしめてくれるように、僕も彼を抱きしめ返す。彼の胸はいつもとても広くて温かい。
「...さて。君は一体どう言う立場で僕の伴侶である咲夜に物を言ったのか、教えてもらえるかな?」
口調こそ優しいものの、まるで氷の刃のような言葉が吐かれる。うらら君をチラリと見上げると、張り付けたような笑みを浮かべていた。後ろの方で息を呑む音が聞こえる。きっと山下さんだろう。どうしよう、うらら君は優しいけど怒ったらとても怖いんだ。山下さん助けないと。でも、隣にいる恋ちゃんも、どうやら助ける気はないようで腕を組んだまま山下さんを冷ややかな目で見ている。
「...そいつは、天海組の姐さんの跡を継ぐにふさわしくありません」
「...へえ」
まさかの山下さんからの言葉により一層うらら君の纏う空気が冷たくなる。
「君は、この咲夜が、僕の、ここ天海組の後継である春野うららの選んだ相手だと知っていて咲夜に対してあんな態度をとっていたのかな?」
その優しく丁寧な口調とは裏腹に、うらら君のオーラは氷点下だ。僕を抱きしめている腕に、ぐっと力が入ってうらら君は僕をさらに強く自分の胸に押し当てていた。
「天海組の跡継ぎであるうららさんには!うちのお嬢が一番ふさわしいと思っています!」
山下さんが、自分を気圧しているうらら君の覇気を飛ばすように大きな声で叫んだ。そして、その瞬間にうらら君の纏っていた空気がふっと緩んだ。



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