×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




8

「うららの事は出来の悪い兄貴ぐらいにしか思ってないわよ。あたしたちはお互いそっくりなの。自分の事は好きでも、自分の性格を知っているから恋愛対象になんかならないの。それはうららも同じよ」
「そうだね。悪いけど僕も恋の事はとんでもないわがままな妹ぐらいにしか思ってないよ。恋みたいなのと恋人になったりしたらどっちも譲らなくて毎日大ゲンカだよ」
「なんですってえ!あんたの方がよっぽどわがままじゃない!」
ぎゃあぎゃあと言いあう二人を見て、なんだかほっと力が抜けた。油断してしまってがくんとその場に膝から崩れ落ちそうになった僕をうらら君がふわりと抱き留めてくれる。その温かさに、目の奥が熱くなってじわりと涙が浮かんだ。途端にうらら君の纏う空気がまた尖った物になって、僕は慌てて涙を拭いながら必死にうらら君を止めた。
「うらら君、違うんだよ。山下さんは悪くないんだ」
「悪くない?どうして?いくら恋のためを思ってだからって、咲夜に酷いことを言って良いことにはならないし人を傷つけて馬鹿にしてその人の気持ちを無理矢理どうこうしようなんてやって良い事じゃないでしょ?それは今まで散々...」
そこまで言って、うらら君はハッとしたような顔をしてギュッと唇を噛んだ。
「うん...、そうだね。僕は今までずっと、家族から邪魔だ、要らないって言われ続けて来た。家族のために僕は何もかも諦めるのが当たり前で、家族のために僕の物は全部譲るのが当たり前で、僕自身が手に入れる物なんて何もなかった」
僕の言葉を聞いて、山下さんが驚いたように目を見開いた。それからすぐに物凄くばつの悪そうな顔をして僕から目を逸らした。
「でもね、うらら君。僕は、君が僕を助けてくれたあの日から、うらら君の事だけは絶対に諦めないって決めたんだ。うらら君だけは、譲らない。誰に何を言われても、どんな目に合わせられても、僕はずっとずっとうらら君のそばにいる」
「...さく」
「うわあああああん!」
僕の話を聞いていた恋ちゃんが、急に大声を上げてわんわんと泣き出した。山下さんがオロオロと慌てふためいている横で、恋ちゃんは泣きながら僕に向かって頭を下げた。
「ごめっ...、ごめんなさい...っ!うちの、山下が、ごめんなさい...!」
「恋ちゃん、謝らないで、」
「だって、だって...!さくちゃん、ずっとずっと辛い思いしてて、やっとうららに愛されて幸せになれたのに、うちのバカがさくちゃん傷つけるような事言って...!あ、あたし、あたし、うららにも、おじさんおばさんにも、もう顔向けできない...!ごめんなさい...!」
「そんな!恋ちゃんは何も悪くないよ!」
「下の者の不始末は、あたしの責任だから...っ、」
「ちっ、ちがいます!俺がっ!俺が悪いんです!」
山下さんがその場で僕たちに向かって土下座をし、頭を床にこすりつけた。
「俺っ、俺…!お嬢さんの事考えてるつもりで何も考えてませんでした!俺がしたことは俺が一人でケツ持てばいい、破門になっても仕方ないし下手したらタマ取られることだってどっかに売られることだってそれも覚悟の上だと思ってて、今お嬢さんがこうなるまでそんな風にしか考えてなくて…!本当にすみません!お嬢さんはなんも悪くねえ、俺がっ、俺が馬鹿でこんなやり方しかできなかったから…!お願いだ!お嬢さんは、お嬢さんだけは…!」
しばらくの間、沈黙が続いた。山下さんは土下座の姿勢のままピクリとも動かないし、恋ちゃんは泣きながら何度も謝ろうとして泣きすぎて声が出ない。
「…うらら君…」
僕はうらら君の名を呼び、でもなんて声をかけていいかわからなくて彼の服をぎゅっと掴む。やがてうらら君は盛大なため息をつき、山下さんに向かって口を開いた。
「…本当なら、君にはけじめをつけてもらうところなんだけど…他ならぬ咲夜がそれを良しとしないなら僕は無理にそうしようとは思わない。恋も、僕には大事な妹だからそこに組としての筋を押し付けようとは思わないよ。…幸いにも他の皆は宴会の途中で恐らく酒に酔っていて今この騒ぎでも誰も気にも留めていない。何があったかを知る人物は僕らだけだ。だから僕は、咲夜の意思を尊重する。君に何もしてほしくないと咲夜が言うのならこの件は不問に付すし、無かった事にしよう」
「うららくん」
「ただし!」
うらら君は大きく一歩踏み出し、床に頭を擦り付けている山下さんの前にしゃがみ込んで彼の頭にポンと手を置いた。山下さんがハッとして顔を上げる。
「君は…、もっとお勉強しような?ヤマシタクン」
「はっ、はひ…」
心なしか、山下さんの頭に置いたうらら君の手が震えているように見えて山下さんの顔も何だか歪んでいるように見えたけれど、うらら君の背中でよく見えなかった。

[ 20/63 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]