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うらら君は、本当に優しかった。いつしか僕はうらら君に惹かれていて、ちゃんと返事をしないと、と思っていた矢先にうらら君といる所で妹の咲華と会ってしまった。咲華はイケメンなうらら君を一目で気に入ったらしく、家に帰るとすぐに自分の彼氏にすると言ってきた。うらら君には好きな人がいるんだよ、と言ってみても自分に自信があり、今まで何でも自分の思い通りにしてきた咲華がそんなことくらいで引くわけもなく、僕は咲華にうらら君との仲を取り持つように言われてしまった。同じように両親にも咲華のためにうらら君を咲華の彼氏になる様にしなさいと言われ、僕は無言で俯くしかできなかった。
うらら君と一緒に買い物をしに行くように仕向けて、その後家に連れていく。僕は咲華のためにそっとそばを離れて言いつけられた通りうらら君にごちそうするご飯の支度をする。咲華はずっとうらら君にべったりとくっついてとても上機嫌にしゃべっている。両親も交じり、和気あいあいと歓談するその輪の中に僕は入れない。うらら君にくっつく咲華を見て今までに感じたことのないような胸の痛みと消えてしまいたくなるような悲しみに駆られた。
咲華は僕と全然似てない。本当に兄妹かと疑われるレベルで容姿が違う。咲華は本当に10人中10人誰もが認める美少女で、僕はその辺に埋もれてしまうような平凡だ。うらら君だって、咲華みたいな美少女に言い寄られたらきっと咲華の方がいいと思うに決まってる。生まれて初めてと言っていいくらいの家族と一緒に取る食事はほとんど味がしなかった。
うらら君が帰った後も三人は上機嫌で、咲華はどうやって落とそうかとあれこれ考えている。僕はそんな3人の会話を黙って聞きながら、食事中にあった出来事を思い出していた。咲華がうらら君に連絡先を聞いた時、うらら君は好きな子がいるからとはっきりと断ってくれた。それが僕の事なんて咲華は知る由もないけれど、僕はまさかうらら君が咲華じゃなく僕を選ぶとは思わなかったんだ。
それから、程なくして両親が莫大な借金を抱えている事を知った。いわゆるグレーゾーンな金融機関からも借りていて、もうどうにもならないところまで来ているらしい。見栄っ張りな両親と咲華は、何も考えずにお金をあるだけ使っていたから借金があると聞かされても実はそうなのかとしか思わなかった。漠然と僕が働いて返していくことになるんだろうな、きっと一生そうなんだろうと半ば諦めの気持ちで話を聞いていたけれど、両親が僕をヤクザに売ったと言った。両親は、僕がヤクザのところに行くことで借金がチャラになるからと言った。それだけじゃなく、所謂そういうお店で働かせればもっと稼げるだろうと言われた。そうすれば借金がチャラどころか幾分かおこぼれをもらえる、だからしっかり働いてこいと。その瞬間に浮かんだのは、うらら君だった。生まれて初めて、両親に抵抗した。それだけはやめてくれと、バイトだって幾つも掛け持ちするからと言ったが両親はそれを許さなかった。物置に監禁され、いつの間にか退学もさせられ、僕がうんというまで殴る蹴るの暴行を加えた。毎日毎日殴られて蹴られて、それでもうんと言わない僕の元に咲華がやってきた。
「うららさんがね、昨日私を抱いてくれたのよ。すっごく素敵だった」
「え...」
「うふふ、今日も約束してるの。ほら」
そう言って見せられたスマホの画面には、インカメで撮ったのであろう、裸で咲華と抱き合ううらら君の後ろ姿があった。
今思えば、あれはうらら君に似た髪型の別人であると簡単に気付いただろうけれど、そんな事さえも頭に浮かばないほど僕の心は限界だった。その日の晩、僕は両親にヤクザの元へ行きますと言った。
この先の人生を諦めた僕を待っていたのは、まさかの展開だった。両親に連れられて行ったヤクザの家が、うらら君の家だった。そこで僕は、うらら君に「伴侶にする」と言われた。うらら君とうらら君のお父さんは、僕を四谷家という地獄から救ってくれたんだ。
それから僕は、うらら君の家で一緒に住ませてもらっている。咲華は遠い親戚の家に引き取られていった。はるか昔に会ったことしかない親戚が、咲華の根性を叩き直すと言って抵抗する咲華を連れていき、咲華はバスが一日に一回くらいしか来ないほどの田舎で親戚に監視されながら生きているらしい。
両親は、どうしているか知らない。知ろうとも思わない。僕は、この春野家でうらら君のために生きていく。そう誓ったんだ。

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