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3

春野家の人たちは、ヤクザとは思えないほど優しかった。よくよく考えてみれば、それはうらら君のおかげなんだろうけれどそれでも誰かに普通に接してもらえることのなかった僕はこの組の人たちも大好きになった。うらら君のおかげで再び通えるようになった高校。帰ってから、うらら君のご家族と過ごす毎日。こんな幸せがいつまでも続きますように、と願った。
ある日、家に帰ると何やら組の中が慌ただしい。いつも組の中は綺麗に掃除されてるんだけれど、今日はさらに皆気合を入れて掃除をしている。それだけじゃなく、いたるところに花なんかも飾ったりなんかしてまるで誰かをお迎えするパーティでも開くかのようだ。
「おかえりなさい、二人とも。今日はね、河合の恋ちゃんが来るのよ」
「えっ、まじ?」
うらら君のお母さんがニコニコしながら帰ってきた僕たちにそう告げた。うらら君がちょっと嬉しそうにしてるから、誰か仲のいい人なんだと思ったらのれん分けした組の若頭の娘さんでうらら君と同い年の女の子なんだという。小さいころから兄弟のように仲良く育ってきた、うらら君にとっても大事な人なんだって。
「咲夜にも紹介するね。きっと仲良くなれるよ」
ニコニコと笑いながらそういううらら君が本当に嬉しそうで、きっとその恋ちゃんという子はとてもいい子なんだろうなと思っていた。
やがて、組の前がざわざわと騒がしくなってきた。下の子達の「お疲れ様です!」って言う声が大きく響くようになってきて、さっき言われた河合組の人達がやって来たのだとわかった。ソワソワしてうらら君と一緒に広間で待っていると、パタパタと軽快な足音が廊下から近づいてくる。
「うららっ!」
閉じられた障子がスパンと豪快に開けられ、ツインテールのハツラツとした美少女が飛び込んできた。
「恋」
「久しぶりー!会いたかったあ!」
両手を広げて、うららくんの胸に飛び込む。うらら君は驚くわけでもなく、まるでいつものことだとでも言うように自然に恋ちゃんの頭を撫でた。
僕は後ろでそれを見ながら、不思議と嫌な気持ちにならなくてむしろまるで映画鑑賞でもしてる気分だった。
「恋、ちょっと離れて。咲夜、これが恋だよ」
「わあ!あなたがうららの奥さんになる人ね!初めまして、河合恋です!うららとは小さい頃から兄妹みたいに育ったの!」
「は、初めまして...四谷咲夜です」
「うららに聞いてた通りだわっ!すっごくすっごくかわいい!!咲って呼んでいい?いいよねっ!」
「あ、は、はい、」
「さーく!」
「は、はい...」
「きゃあー!かわいいー!」
ぴょんぴょんうさぎみたいに跳ねながら自己紹介をしてくれて、更に僕のあだ名を小首を傾げながら呼ぶ仕草はなんとも言えずかわいくて、女の子にそんな風に接してもらったことのない僕は真っ赤になってしまった。そんな僕を見て恋ちゃんは気持ち悪がるどころかかわいいなんて言って僕に抱きついてきた。ふわりと花のよういい匂いがしてどきりとした。
恋ちゃんにされるがままの僕を引き剥がしたのはうらら君だ。僕をぐっと引き寄せてその逞しい胸に閉じ込める。
「これ以上はダメ」
「えーっ!なんでよ!」
「咲夜は俺のなの」
「そんなのずるい!」
僕を挟んで二人でやいやいと言い合っていると、再び障子が開いて若い男の子が飛び込んできた。
「お嬢さん!こちらでしたか!もう、勝手にウロウロしないでくださいよ!探したんですよ!」
「ええー?別にどこに行こうか私の勝手じゃない?しかもここうららの家だしなにも困ることないじゃない」
「俺が困るんすよ!お嬢さんの場所は常に把握しとかないと!」
「うざー」
どうやら恋ちゃんの組の構成員らしく、恋ちゃんがだるそうに返事をしているところを見ると彼は恋ちゃんの付き人なんじゃないだろうか。相手が怒っているのに恋ちゃんはどこ吹く風で全く話を聞いていない。そしてそのやり取りをじっと見ている途中で、彼の意識が時折僕に方に向けられるのに気が付いた。
彼が僕に向ける意識に、僕の背中にぞくりとしたものが走る。
「おい、山下!何してやがる、早く来い!」
「すんません!お嬢さん、いいですか!どこかに行くときはちゃんと俺にどこに行くっていう報告をしてからにしてくださいよ!」
返事をしない恋ちゃんを指さして、彼は部屋から出て行った。
「恋、彼初めて見るね」
「うん、つい二か月ほど前にうちに入ったやつなんだけど、私の護衛を命じられててね。悪い奴じゃないんだけど思い込み激しいし一人やる気から回るしめんどくさいのよね」
彼の様子から、どれだけ彼が恋ちゃんの事を思っているかが分かった。でも僕は、部屋に入ってきた彼の、時折僕に向けられるあの空気を思い出して胸にぞわりとしたものが広がった。


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