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6

正門に行くと、滝沢と黛、高田に富原さんがいた。
…そして、咲人様も。

「屋敷内にまだ主人がいてな。
全員で見送るわけにはいかないから…」

高田が申し訳なさそうに声をかけてきた。
…あんな話を聞いても、見送ってくれるその気持ちが嬉しい。

「堂島。俺は君に感謝している。
やはり君は風穴を開けてくれた。
正直、このまま君がいなくなることはよい事とは思えない。
できればずっといてほしかったが…。」
「ありがとう、高田さん」

高田の手を握り、にこりと微笑む。

「正明っち…!こ、これ、僕の連絡先!ぜったい、ぜったい連絡してよ!」

黛が涙声になりながらおれにぎゅうぎゅう抱き着いた。

「…堂島」

黛に抱き着かれたままの俺に、滝沢が声をかける。

「…正直、初めはお前みたいなやつが俺の上に立つなんてと思っていた。だが、お前は俺たちなんかよりずっとずっと幸人様に必要な人間だった。」

ふ、と滝沢が悲しそうに微笑んだ。

「…滝沢。幸人様を頼む。」

俺の一言ですべてを理解してくれたのか、いつになく力強く頷いてくれた滝沢にほっとする。

「堂島君」

泣きじゃくる黛を高田が俺から引きはがすと、咲人様が俺に歩み寄る。

「…君には感謝してもし足りない。
幸人との絆を取り戻せたのは君のおかげだ。ありがとう。」

咲人様が、深々と頭を下げた。

「やめてください。
俺じゃなくて、咲人様が幸人様をずっと大事に思っていたからこそです。
…咲人様。
どうか、どうか幸人様を守ってあげてください。あの人は、人一倍傷つきやすくて脆い人です。
兄として、支えてやってください。
…お願いします…」

俺が頼むことなんかじゃないのはわかってる。
咲人様は誰より弟を大事にしている人だから。
それでも、確証が欲しかった。



俺はもう、守れないから。
そばにいてあげることが、できないから。


どうか、俺の代わりにあの人を。
そんな身勝手な、分不相応な俺の願いに咲人様はしっかりと頷いてくれた。

「…これが退職金です。約束通り二千万。」

富原さんが小さめのトランクを差し出してきたが、俺は首を振った。

「…すみません。受け取れません。」

それを受け取ってしまえば、俺は金で幸人様への気持ちを売ったことになるような気がした。
そんな俺の表情に何かを感じたのか、富原さんがトランクを下におろした。

「堂島君、本当に申し訳ない。
こんな形で解雇になってしまって…」
「気にしないでください。
初めにきちんと説明しなかった俺が悪いんですから」

あんなに、執事としてなってないって怒ってたのにな、富原さん。


一度だけ、屋敷を見上げる。
一番右端の、角の部屋。
そこには幸せな夢を見ながら眠っているであろう愛しき人がいる。


「…ありがとうございました。」


深々と頭を下げて、背中を向けて歩き出す。
二度と振り返ることはしなかった。


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