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正門に行くと、滝沢と黛、高田に富原さんがいた。
…そして、咲人様も。
「屋敷内にまだ主人がいてな。
全員で見送るわけにはいかないから…」
高田が申し訳なさそうに声をかけてきた。
…あんな話を聞いても、見送ってくれるその気持ちが嬉しい。
「堂島。俺は君に感謝している。
やはり君は風穴を開けてくれた。
正直、このまま君がいなくなることはよい事とは思えない。
できればずっといてほしかったが…。」
「ありがとう、高田さん」
高田の手を握り、にこりと微笑む。
「正明っち…!こ、これ、僕の連絡先!ぜったい、ぜったい連絡してよ!」
黛が涙声になりながらおれにぎゅうぎゅう抱き着いた。
「…堂島」
黛に抱き着かれたままの俺に、滝沢が声をかける。
「…正直、初めはお前みたいなやつが俺の上に立つなんてと思っていた。だが、お前は俺たちなんかよりずっとずっと幸人様に必要な人間だった。」
ふ、と滝沢が悲しそうに微笑んだ。
「…滝沢。幸人様を頼む。」
俺の一言ですべてを理解してくれたのか、いつになく力強く頷いてくれた滝沢にほっとする。
「堂島君」
泣きじゃくる黛を高田が俺から引きはがすと、咲人様が俺に歩み寄る。
「…君には感謝してもし足りない。
幸人との絆を取り戻せたのは君のおかげだ。ありがとう。」
咲人様が、深々と頭を下げた。
「やめてください。
俺じゃなくて、咲人様が幸人様をずっと大事に思っていたからこそです。
…咲人様。
どうか、どうか幸人様を守ってあげてください。あの人は、人一倍傷つきやすくて脆い人です。
兄として、支えてやってください。
…お願いします…」
俺が頼むことなんかじゃないのはわかってる。
咲人様は誰より弟を大事にしている人だから。
それでも、確証が欲しかった。
俺はもう、守れないから。
そばにいてあげることが、できないから。
どうか、俺の代わりにあの人を。
そんな身勝手な、分不相応な俺の願いに咲人様はしっかりと頷いてくれた。
「…これが退職金です。約束通り二千万。」
富原さんが小さめのトランクを差し出してきたが、俺は首を振った。
「…すみません。受け取れません。」
それを受け取ってしまえば、俺は金で幸人様への気持ちを売ったことになるような気がした。
そんな俺の表情に何かを感じたのか、富原さんがトランクを下におろした。
「堂島君、本当に申し訳ない。
こんな形で解雇になってしまって…」
「気にしないでください。
初めにきちんと説明しなかった俺が悪いんですから」
あんなに、執事としてなってないって怒ってたのにな、富原さん。
一度だけ、屋敷を見上げる。
一番右端の、角の部屋。
そこには幸せな夢を見ながら眠っているであろう愛しき人がいる。
「…ありがとうございました。」
深々と頭を下げて、背中を向けて歩き出す。
二度と振り返ることはしなかった。
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