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荷物を取りに、自室へ上がると執事服からここに来た当初の自分の服に着替え、鞄に荷物を詰め込んで、肩にかけて俺は幸人様の部屋にそっと入った。
ベッドに、やわらかな寝息を立てて眠る愛しき人。いい夢でも見ているのだろうか。ほんのりとその口元が笑みを浮かべているようだ。思わず自分にも笑みがこぼれ、柔らかい髪をそっと撫でる。
幾度も幾度も、幼子をあやすように撫でて、前髪をあげてその額にそっと口づける。
気配に気づいたのか、幸人様が目を開けた。
「…正明…?」
まだ覚醒しきっていない幸人様を、そっと抱きしめる。
「…幸人様。愛してます。
あなたは、俺にぬくもりを取り戻してくれた大切な人だ…。」
「…ど、したの、急に。…嬉し…」
とろんとした目で、ふにゃりと幸せそうに笑う幸人様にそっと口づける。
ああ、何て愛しい。
「…急にどうしても伝えたくなって。
愛してる。愛してるよ、幸人…。」
もう一生、伝えることができないから。
全ての愛をこめて、君に。
「俺も…。俺も愛してる」
しばらく抱きしめた後、お休みと言って眠る幸人様を見届けて部屋を出る。
音を立てない様に、起こさない様に。きっと次に幸人様の笑みを見てしまったら、耐えることができないから。
「…お休み、幸人…」
どうか、幸せな夢をいつまでも。
扉を閉めて、肩にカバンをかけ直すと振り返らずに部屋を後にした。
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