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3

屋敷に戻り、エントランスの花瓶の花を変えながらぼけっと考えていた。
屋敷について、幸人様は俺に向かって
『ありがとう』
と言ったのだ。

今日の朝の態度といい、咲人様に対する態度。
幸人様が変わったのは、あの話をしたせいだ。

俺の、弟の話。

咲人様は、いい人だ。
何だか自分とかぶって、確かに幸人様に仲良くしてほしいとは思っていた。
せっかくの兄弟なのだから。

実際、今日の幸人様の咲人様に対する態度の変化で、咲人様がとても喜んでいたのは間違いないし俺としてはとても嬉しかった。

「正明っち♪」
「うわっ!?」

急に横から顔を覗き込まれて驚いて大声を出してしまった。
黛が俺を指さしてけらけらと笑う。

「なにそれ、ビビりすぎっしょ!」
「仕方ないでしょ、驚いたんですから。
なに、なんか用ですか?」

花瓶に花を挿しながら問いかけると、黛はにこにこと笑いながら肩を組んできた。

「いやあね、またまた幸人様が人が変わったようになったじゃん?
今度は何があったのかなあってさ。」

ごまかすのもどうかと思うが、俺の過去を別に話すつもりはない。
これ以上誰かに同情されるのはごめんだ。
そこまで考えてふと胸が痛む。


同情、なのだろうか。
幸人様は、おかしくなる前、過去の話をする前に少しづつだけど俺に心を開いてくれていたはずだ。
何が原因でおかしくなったかは知らないが、そうなってから俺が話をして。
その次の日の、あの変わりよう。
幸人様は、俺の話を聞いて同情したのだろう。

それもそうかな。
普通の人間ならあんな話を聞いたら同情するに決まってるよな。


…同情なんてしてほしくない。
俺が、俺が欲しいのは…


「正明っち?」

黛に声をかけられ意識を戻す。


何考えてんだ、俺は。


ぶるぶると頭を振り、黛の方を見る。


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