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「おはよう」
次の日の朝、部屋を出ると扉の前に滝沢がいた。
とても気まずそうにしているので、
背中をばんと叩いて挨拶をしてやると心底ほっとしたような顔をして挨拶を返してくれた。
二人で談笑していると、部屋の扉があいて幸人様が現れた。
「おはようございます」
「…おはよう」
二人並んで挨拶をすると、幸人様が小さな声で挨拶を返してきた。
思わず滝沢と二人で顔を見合わせる。
そのまま食堂へ行くと、咲人様がいた。
一週間前。
幸人様がまた以前のように戻ってしまったとき、
咲人様がどんなに話しかけようとも幸人様は無視をした。
その時の心底悲しそうな顔は忘れることができない。
「おはよう、幸人」
それでも、咲人様はめげずに今日も声をかけた。
「…おはよう、兄貴」
幸人様が返した挨拶に、その場にいた皆が目を見開いた。
ここに来て初めて、幸人様が咲人様のことを兄貴と呼んだのだ。
言われた咲人様が一番驚いた顔をして固まってしまっている。
幸人様は顔を真っ赤にしながら自分の席に座り、黙々と食事を始めた。
咲人様は口元に緩く笑みを浮かべ、同じく無言で食事を続ける。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいるかのように見えた。
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