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7

「だからね、この仕事が無くなるのは困るんですよ。
その為なら何でもします。
金を貯めなきゃいけないんで。
…さ、先ほどのご命令の続きを…」

言い終わる前に、幸人様が俺に覆いかぶさったまま抱きしめてきた。
密着するその体が震えているのがわかる。

「…離してください。同情なんかいりません」

引きはがそうとするも強く俺を抱きしめたままびくともしない。
それどころかますます拘束を強くする。

「…離せ」

その久しぶりのぬくもりが。

「頼む、から…っ」

最後に抱きしめた弟と、被って。

「う…、うう…っ!」


最後のあの日、俺はいつものように眠る弟を抱きしめた。
その時に、珍しく寝ぼけたのか弟は小さな腕を上げ、眠りながらおれをきゅっと抱きしめ返した。
そっと起こさないように、腕を離して仕事に向かったあの日。
抱きしめたままでいたなら、弟は死ななかったのだろうか。


「う、ああ…!うあああ、あ…!!」

俺を抱きしめる幸人様の腕を握りしめながら、
最後の弟のぬくもりと後悔を思い出して俺はぼろぼろと泣いてしまった。
涙が、次から次から溢れて止まらない。
幸人様は何も言わず泣き続ける俺をずっと抱きしめていた。


しばらくして、ようやく落ち着いた俺は幸人様から静かに離れベッドから降りた。

「お見苦しいところをお見せしました。」

頭を下げ、退室しようとすると幸人様が俺を呼び止めた。
振り返り、言葉を待つ。

「…明日からまた、迎えに来てくれるか」

俺に背中を向けたままポツリとこぼす幸人様。

「ええ、喜んで」

幸人様の振り返らない背中が、ほっとしたように力が抜けるのがわかった。
その姿に俺もなんだかほっとして、一礼をして挨拶をして退室した。


部屋に戻ると滝沢がひどく泣きそうな顔で俺を出迎えた。

「すまない…」

本当に申し訳なさそうに頭を下げる滝沢に気にするなと伝える。


バカだなお前。
あれからずっと俺の部屋で待ってたの?


滝沢は何度も何度も振り返りながら部屋を出て行った。

気にしすぎだよね、あの人。

シャワーを浴びて、着替えてベッドにもぐりこむ。


…誰にも、言うつもりはなかった。
俺の過去のことなんて、話すつもりはなかったのに。
ただ、俺に覆いかぶさった時の幸人様の顔があまりにも辛そうで。
それが何だか本当に申し訳なくて。
あなたのせいじゃない、と言いたくなった。


ぎゅっと目をつぶって小さくなって自分の体を抱きしめる。

泣いたのは、あの日以来だ。
一人になったあの日から、俺は泣くのをやめた。
泣いたところで弟が戻ってくるわけではない。
弟を死なせたのはこの俺なのだから、泣く資格もない。
でも、幸人様に抱きしめられたとき。

俺は弟に、

『泣いてもいいよ』

と言われたような気がした。


ベッドにもぐりこみ、幸人様のぬくもりを思い出しながら久しぶりにぐっすりと眠った。


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