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6

玄関をそっと開けて、俺は凍りついた。

『あんたどこ行ってたの』

いつもならいないはずの母親がそこにいた。

母親は、濁った焦点の合わない目でじっと俺を見ている。
その体に、ぽつりぽつりと赤い花が咲いたようにところどころにしみがあった。
よく見ると、母親の手も、顔も、花が咲いたように赤かった。
とっさに、弟を探す。


あいつは。
弟は、どうしたの。


母親の横を通り抜け、弟が寝ているはずの部屋へ向かう。


…あれはなに。
弟は?弟はどこに行ったの?


弟が眠るはずの布団に、赤い塊。

『こいつねえ、うるさいのよねえ。
せっかくあたしが抱いてやろうかと思ったのに、あたしの顔見たとたん泣き出しやがって。
あんまりうるさいからちょっと叩いたら静かになったんだけどね』


うそだ。
うそだ。
あれは、ただの赤い塊だ。
弟のはずがない。


塊に近づき、そっと震える手を伸ばす。

『う、あああああ…!あああアアアアアア!!』

赤い塊を抱きしめて、俺は叫んだ。
それは間違いなく、弟であったものだった。



その後俺の叫びに周りの住人がたまたま部屋に入ってきて、母親は逮捕。俺は施設に入れられた。
弟の葬儀は、施設の人が手配してくれた。
全てが終わって、俺の手にそっと渡された小さな箱。
この中に、弟が眠っている。

『にいちゃん』

弟の声が、俺を呼んでいるようで。

中を開け、一つ摘まみあげてお守りの袋に入れて首から下げる。
俺の手元に残ったのは、小さな小さな弟のかけらだった。


施設に入った俺はがむしゃらに勉強した。
補助のおかげで高校にも行くことができた。
高校に行ってからは学費を稼ぐためにバイトもした。
一緒に暮らそうと、その約束は守れなかったけれど。

いつか、金を貯めて。
弟の墓を作ってやるために。
金さえあれば。

そう思って、ただひたすらに生きた。
少しでもたまった金は全て墓代の為に積み立てている。
この仕事に就く前も、有り金全てを預金したために無一文だった。


弟のためのお金には手を付けたくない。
あれは、弟のためのものだから。
必ず守ると約束した。
その約束を果たせなかった俺が唯一してやれることだから。


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