5
いつの間にか母親はいなくなってて、弟が俺を泣きながら揺さぶっていた。
しゃくりあげる弟の頭を何度もなでてやる。
大丈夫。大丈夫だよ。
何があってもお前を守るから。
泣き疲れて眠る弟の顔を見ながら俺はまた一つ決意した。
金を貯めよう。
新聞配達でも何でもいい、とにかく金を貯めよう。
勉強して、いい学校に行っていい仕事について。
人間らしく生きられるように。
弟と二人で、この家を出て生きていこう。
警察なんか当てにならないのを俺は知っていた。
一度駆け込んだことがあるからだ。
その時警察は泣いて反省する母親にあっさりと俺を引き渡した。
帰ってから俺は顔が腫れるほど殴られた。
信じられるのは己と弟のみ。
だが、俺の決意はいとも簡単に崩されることとなる。
母親は昼間はぐうたら寝ているが、夜は仕事に出ているため帰ってくるのはいつも朝の7時過ぎとかだ。
俺は母親のいない間に新聞配達の仕事を始めた。
新聞屋のおじさんには、父さんも母さんも病気で、なんとか助けになりたいとか上手く言って泣き落として働かせてもらってる。
母親が帰る前に家に戻れば大丈夫。
待ってて。すぐに助けるから。
母親が出て行ったあと、弟を寝かせてからそっと俺は家を出る。
明け方に家に戻り、眠る弟の横にもぐりこんで抱きしめながら眠った。
働き始めて一か月がたち、初めてのお給料をもらった。
小学生だから、もらえた金額はほんのわずかだったけれど、それでも俺にとってはこの地獄から脱出する第一歩だ。
もらったお金を握りしめて、コンビニへ向かう。
小さなチョコレートを一つと、クリームパン。
どちらも弟の大好物だ。
俺は弟に買ったお土産を手に、喜ぶ弟の顔を思い浮かべながら走って家に帰った。
[ 43/73 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
top