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10

差し出したカップをそっと手に取り、
じっと見た後ゆっくりと口を付けた。

よかった、気に入ったみたいだ。

全て飲みほしたカップを受け取り、サイドの棚に置く。

「お、おい?」

起き上がっている幸人様をぐいと押して、
ベッドに無理やり寝転がらせると、幸人様が焦ったように声を出した。

ふは、顔真っ赤。
この人焦るとすぐ顔に出るよね。

きょろきょろと困惑している幸人様に、そっと掛布団をかぶせてやる。

「いいですよ。眠るまで側にいてあげます」

寝転がる幸人様の横に腰掛け、とんとんとお腹のあたりをリズムよく叩いてやる。

「…子供にやるやつじゃないのか…」

そうだよ、とんとんだよ。
だってあんた子供じゃん。

「…っ、うるさい!」

くるりと俺に背中を向け、また布団にもぐりこんでしまった。

ありゃ、また声に出てたか。
まあいいか。

文句を言いながらも俺の手を受け入れている幸人様がなんだかかわいくて口元が緩んだ。
やがて、幸人様が静かに寝息を立て始める。
その寝息を聞きながら、
俺は先ほど部屋の前でした滝沢との会話思い出していた。



俺の言い訳に同意した中川さんの言葉で渋々文句を飲み込んだ富原さんはじめ皆が解散した後、滝沢だけ物言いたげに俺を見ていた。

「どうした?」

俺の問いかけに滝沢はどうしようかとちょっと悩んだようだったが、その口を開いた。

「…さっき、幸人様が暴れた原因なんだが」

そういや急に暴れだしたんだっけ。

「お前に聞かれたとき、わからんと嘘をついた。
いや、嘘ってわけじゃない。ただ、確信が持てなくて…」

なんなの。
嫌に含みがあるね。

「部屋に戻る途中に、幸人様がお前がついて来ていないことに気づかれたんだ。
それで、どこに行ったか聞かれて咲人様に連れられてテラスに行ったと告げたとたん、みるみる機嫌が悪くなって…」

滝沢の話にぽかんと開いた口がふさがらなかった。
つまり、なんだ。

「…おそらく、お前が咲人様に連れて行かれたからだと思う」

悪かった、俺の憶測でしかないから気にしないでくれ、
と滝沢はその場を後にした。
滝沢の言葉がぐるぐるとまわる。

幸人様、そうなの?
俺がいなくて寂しかったの?



「…まいったなあ」

布団にもぐりこんでいる幸人様にとんとんとしながら、俺は泣きたいのか笑いたいのかよくわからない自分の感情に戸惑った。

静かにふける夜の中。
俺の、幸人様をとんとんと叩く音と、幸人様の柔らかい寝息だけが響いていた。


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