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9

滝沢としばらく話をしてから、滝沢から渡された救急箱を持って部屋に戻ると、幸人様がベッドに転がっていた。
近づいて横に腰掛け、顔をのぞき見る。
目をつぶって静かに呼吸している。

寝てるのか。

切れた口元をそっと指でなぞる。
と、幸人様がぱちりと目を開けた。

「起こしてしまいましたか、すみません。」
「…起きてた」

むすりとしたまま答える幸人様に、そうですか、と返して救急箱を開ける。
ガーゼと消毒薬を取出し、脱脂綿に消毒薬を染み込ませて傷跡に軽く塗る。
幸人様は少し痛そうに顔を歪めたが、特に嫌がることもなく大人しく俺の手当てを受けていた。

「今回も引き分けですね」

手当てが終わり、救急箱を片付けながらわざとちょっとおどけて言う。

「…そうだな」

幸人様はむすりとしながら返事をした。

「幸人様のお部屋はまだ片づけが済まないようですので、
今日はこちらでお休みください。
俺は客室に行きますので」

失礼します、と救急箱を持って立ち上がろうとする俺の手を幸人様が掴んだ。

「…枕が変わると寝られん。寝付くまでここにいろ」

ガキかよ!

「…ガキで悪かったな」

掴んでいた俺の手を離し、幸人様が膨れて言う。

ありゃ、また口に出ちまった。

幸人様は何も言わず、ベッドにもぐりこんで俺に背中を向けてしまった。
俺は救急箱を手に立ち上がり、いったん寝室を後にする。
適当にその辺に救急箱を置いてから、キッチンに向かい冷蔵庫を開けた。

「あったあった、牛乳」

ホットミルクを作って寝室に戻ると幸人様が俺を見て驚いたような顔をしてベッドに横たわっていた体を起こした。

「なんすか?」
「…いや、出て行ったのかと…」

もごもごと口ごもる幸人様にホットミルクの入ったマグカップを渡す。

「寝付けないって言うから、これを作ってたんです。
ホットミルク。
安眠効果があるらしいですよ。」


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