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騒ぎを聞きつけた皆が部屋の外で扉を叩いている。
がつん!とお互いの頬に何発目かの拳が入った時、お互い力尽きてその場に崩れてしまった。
俺の部屋の外では心配そうに幸人様の名を大声で呼びながら扉を叩く副長の中川さんの声が聞こえる。
ごろんと転がってしばらく息を整え、落ち着いたところで立ち上がって寝室から出て叩かれている扉に向かった。
幸人様はまだ転がったままだ。
がちゃりと扉の鍵を開けると、富原さんが目の前にいた。
ちょうどこの部屋のスペアキーをもって富原さんが着いたところだったのだろう。
鍵を今まさに鍵穴に差し込もうとしているところだった。
傷だらけの俺の顔を見てひどく驚いた顔をする。
「い、いったいどうしたんだね!?」
富原さんと中川さんが叫ぶ。
俺は後ろ手に扉を閉めて皆の前に出た。
幸人様の様子を見られたんじゃ何を言われるかわからない。
またお説教とかメンドクサイことはごめんだ。
「や、なんもないです。
幸人様がご機嫌斜めだっただけでこのような顔になりました。
今は落ち着いて眠っておられますのでご心配なく」
とかなんとか言いながら
『幸人様が出てきたら終わりだな〜』
なんてぼんやりと思った。
富原さんは信じていないんだろう、ものすごく怪訝な目を俺に向ける。
知るか。
しらを切りとおしてやる。
「きみは…」
「富原さん」
何か言おうとした富原さんを遮り、中川さんが声を出した。
「もし堂島君が言うように幸人様がお休みなら、ここで騒がしくするのは…」
中川の言葉に富原さんが、ぐ、と黙る。
じろり、と俺を見た後、ため息を一つ吐いた。
「…しばらく君の部屋で幸人様のご様子を見てくれ。
問題なくお休みのままならそのままおいて、君は今夜客室で寝るといい」
富原さんがくるりと背を向けると同時に集まっていた皆もそれぞれ持ち場に帰る。
帰り際、中川さんが少しだけ俺に微笑みかけた。
ばれてら。
皆がいなくなった後、滝沢が一人残っていた。
「どうした?」
何か物言いたげに立っているのでこちらから問いかけた。
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