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1

その翌日、何事もなく一日が過ぎ幸人様のお迎えの時間のことだった。
車を正門につけ、車のそばに立つ俺たちを見つけて幸人様はひどく不機嫌な顔をした。
どうぞ、と扉を開けて乗車を促すと、ぷいとそっぽを向いて横を通り過ぎてすたすたと歩き出してしまった。

「ゆ、幸人様!」

滝沢が慌てて肩を掴むと、ばしんと叩いて振り払い、じろりと睨む。

「今日は一人で歩いて帰る。」

それだけ言うとまた前を向いて、一人で歩き出して行ってしまった。
何が何だかわからなくてぼけっとしていると、滝沢がものすごく困っておろおろしていた。

どうしていいのかわからないのだろう。
しょうがないな。

「滝沢、お前車乗って帰っててくんない?」
「し、しかし幸人様が…」
「俺が付いてくよ。
車ここに置いとくわけにいかないだろ?
何かあったら連絡する」

滝沢はすまない、と頭を下げ車を動かした。


さ〜て、わがまま坊ちゃんにお付き合いしますか。


ひとつ背伸びをして幸人様を追いかける。
少し走ればその背中にすぐ追いついた。
少し斜め後ろについて無言で歩く。

俺に気付いた幸人様が目を丸くしてひどく驚いたが、すぐにじろりと俺を睨んだ。

「何しに来た」
「何しにって、幸人様と一緒に帰りに?」

さらりと言葉を返すと幸人様はまた一瞬大きく目を見開いたかと思うと前を向いて無言で歩き出した。
俺もそのまま無言で歩く。

今日もいい天気だ。
さらさらと頬をなでる風が気持ちがいい。
屋敷までの道のりにある川沿いの土手をゆっくり歩く。
少年野球だろうか?
ユニフォームを着た子供たちのランニングの掛け声が聞こえる。

「あ」

ふと土手を見ると、タンポポの綿毛を見つけた。
立ち止まってしゃがみ込む俺に気付いた幸人様が自身の歩みを止め、俺の方を何事かとじっと見ている。
俺は見つけた綿毛を手折り、
にこにこと笑いながら幸人様を振り返った。

「ほら、綿毛」

幸人様に掲げて見せて、口元に持っていきふ〜っと息を吹きかける。
綿毛は風に乗って空に舞い高く遠く飛んで行った。


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