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「おい、堂島」
食堂からの帰り、高田に呼び止められる。
こいつとは初めに挨拶を交わしてからまともに会話した記憶がない。
高田は咲人様専属だからあまり接点がないので仕方ないんだけども。
「俺は18の時からここに執事として働いている。
咲人様がまだ高校生の時からだ」
咲人様は今大学生で22だったかな。
てことは約5,6年前からってことか。
「長く勤めているが、あんなに楽しそうに幸人様と会話をされる咲人様は初めてだ。
富原さんはお前をここに入れたことを後悔しているようだったが俺は違う。
お前はきっとこの屋敷の風穴となる。
これからも、よろしく。」
すっと手を出され、その手と高田を見比べた。
風穴って。
いい意味で言ってくれてるんだとは思うけど、そんな何かを期待されるような人間でもないんだけど。
ちょっと困惑したけど、高田がものすごく人のいい笑みを浮かべて手を伸ばしているから。
にこりと笑ってその手を取った。
「こちらこそ、よろしく」
部屋に戻ると、黛からメールが来ていた。
『正明っち〜!自転車とか超ウケる!僕も今度乗せてね
』
女子高生かお前は。
返信を返した後、ごろりとベッドに横になる。
幸人様との二人乗り、楽しかったなあ。
…あんな風に人と笑いあえたのは初めてではないだろうか。
目を閉じると風が頬をなでるあの時の感触を思い出す。
「楽しかった…」
でも、幸人様はさっき咲人様の前で面白くないと言った。
あの時楽しそうに笑ってくれていたのは嘘だったんだろうか。
ずきりと。
幸人様の言葉を思い出して少し胸が痛んだ。
「おい、堂島!堂島!」
「う…」
ゆさゆさと体を揺すられてゆっくりと目を開ける。
目の前に、ひどく心配そうな顔をした滝沢がいた。
どうやらあのままうとうとと眠ってしまったらしい。
体を起こすとひどくめまいがした。
ずきずきと頭が痛む。
「大丈夫か?ひどくうなされていたが…」
「あ〜、ごめんごめん。
なんか超怖い夢見たみたいでさ。
んで、どしたの?なんか用事?」
「…使用人の食事の時間になってもお前が来ないから様子を見て来いと言われたんだ」
時計を見やると時刻は午後九時を指していた。
幸人様の食事が終わったのが7時頃だから二時間ほど眠っていたらしい。
「ごめん。」
「いや、別にかまわない。
慣れない仕事で疲れもあるだろうからな。
今日の夜はきちんとベッドで寝ろよ。
もう運んでやらないからな」
昨日俺はソファで寝ていたはずなのにいつのまにかベッドに寝ていた。寝ぼけてベッドに行ったんだと思ってたんだけど、あれって滝沢が運んでくれてたのか。
「…お前、いい奴だね。初めは嫌味ばっかだったけど」
「…お前には借りがあるからな」
ちょっとばつが悪そうに滝沢が言った。
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