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6

「幸人様!ご無事ですか!」

屋敷に帰ると富原さんが真っ青な顔で駆けてきた。

「堂島君!君ってやつは…!
自転車に二人乗りなんかで幸人様にもしものことがあったらどうするつもりだ!」
「はあ、すみません。」

自転車2ケツでもしものことって。
どんだけ過保護なの。
そんなこと言ってたらこの人道も歩けなくなるじゃん。

「くくっ、その通りだ。富原、おまえは心配が過ぎる。
うっとおしいからやめろ」

ありゃ、また声に出てたみたい。
俺口ゆるいよね、気をつけなくちゃ。

「おい、堂島」
「はい?」
「明日も迎えに来い。自転車でな」

幸人様!と富原さんが呼ぶ声を無視して、
颯爽と屋敷に入っていった。



「主人を自転車で迎えに行くなんて執事は前代未聞だぞ」

部屋に着くと滝沢が眉間にしわを寄せて信じられんとため息をついた。

「いや、ほかに思いつかなかったんだよね。
幸人様も気に入ってくれたんだし結果オーラいということで」
「…お前は…」

滝沢が何か続けようとしたところで、幸人様からの呼び出しが入った。二人で部屋に向かうと、二人並んでいる姿を見ていきなりむすりと機嫌が悪くなる。


「…貴様は誰だ」


幸人様の言葉に、滝沢がショックを受けた顔をして唇をかむ。
そりゃそうだろう。
滝沢は俺より先にこの屋敷に入り俺が来るまで何日かは幸人様の世話をしていたはずだ。

「…幸人様専属執事補佐の滝沢と申します」

それでも表情を崩さず、一礼する。

えらいよ滝沢。
さすが一流の執事だな。

そんな滝沢を幸人様はじろりと一瞥した。

「…二人もいらない。貴様は解雇だ」
「っな…!」

突然の申し出に、さすがに滝沢は驚きの声を隠せなかった。
俺も目を見開いて驚く。
なんでいきなりこいつが解雇なんだ。

「な、なぜ…。」
「理由などない。気に入らないから、ただそれだけだ。
わかったら今すぐ出ていけ」

富原さんの話では、幸人様は確かに色んな執事をことごとく辞めさせてはきたけれども、意味なく解雇を言い渡したりしたことはないはずだ。どこまで自分の命令に耐えられるかを無理難題を押し付けて向こうから辞めさせるってことしかしなかったはずだけど。

それでも主人の命令は絶対なのだろう。
滝沢が震えながら頭を下げた。

「かしこまりました…。今迄ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げ、幸人様の部屋を退室しようとする滝沢の腕をがしりと掴んだ。

「っ、堂島…?」
「行く必要はない。お前は悪くない。」

こいつが何をしたってんだ。
こんな理不尽な話があるか。

「二人もいらないってんならお前が残れ。
俺が辞めます。」

俺はもともと正式な執事ではない。
きちんと訓練も受けていないしちゃらんぽらんだ。
執事としてなら滝沢ほど熱心で仕事のできる奴なんていないだろう。
こいつはこの屋敷に必要な人材だ。

あ〜あ、残念だな。
今日、ちょっとだけ幸人様に近づけたかと思ったのに。

「短い間ですがお世話になりました。」
「っ、ま、待て!」

幸人様が切羽詰ったように退室しようとする俺を引き留める。

「な、なんでこいつを庇う。」
「当たり前でしょ。
俺よりはるかにできる奴なのになんで俺じゃなくてこいつが解雇になるのかわからない。
役に立たないってんなら俺の方だ。」

そう言って滝沢を見ると、滝沢が泣きそうな顔で俺を見ていた。
そして幸人様を見て、滝沢が表情を変えた。

なんだ?その顔。

形容しがたい複雑な顔で幸人様をじっと見ているので、俺も幸人様を見る。

「…解雇は取り消す。今迄通りでいい…」

幸人様は俺が見るより早く背中を向けてしまったので、その表情を見ることはかなわなかった。
幸人様の言葉に滝沢と二人ほっとした。

「あ、それで御用事は?」

そういや元々呼び出されたんだっけ。

「なんでもない。…夕食に呼びに来い」
「かしこまりました」

背中を向けたままの幸人様に一礼して部屋を退室すると、滝沢がまじまじと俺を見ていた。


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