5
きこきこと自転車を漕いで屋敷へと向かう。
「おい、重くないか」
「へ?ああ、大丈夫ですよ〜。余裕余裕」
途中、幸人様が声をかけてきたので答える。
なに?俺の事気にしてくれてんの?
なんだ。
意外にいい奴じゃないか。
自転車を漕ぐ音だけが、二人の間を通り抜ける。
頬をなでる風が気持ちいい。
「…悪くないな。風が気持ちいい。
なかなかいい気分だ。」
背中から、ふ、と笑う声が聞こえた。
ちょっとだけ、その声にとくんと胸が高鳴る。
同じだよ、幸人様。
俺も今そう思った。
昨日大喧嘩をしたのが嘘みたいだ。
ゆっくりと流れていく街並みを無言で通り過ぎる。
「あ、坂道です。しっかり掴まってくださいね」
「あ?なに、…わああ!!」
ちょっとした急な下り坂を、ノンブレーキで滑り降りる。
急にスピードが出て幸人様がびっくりしたのか大声を上げた。
もしかして、自転車乗ったことないんだろうか。
「あは、あはは!」
慌てた様子がおかしくて、思わず笑い声をあげた。
俺が笑ったのに驚いたのだろうか。
わめいていた幸人様が、声を止めた。
「は、はは…。あはは!」
「あはははは!」
そのあと、俺につられるように声を上げて笑い出す。
俺もそれにつられて笑う。
長い下り坂、落ちないようにサドルをしっかりつかみながら。
ハンドルをしっかりと握りしめながら。
二人、馬鹿みたいにゲラゲラ笑いながら自転車を走らせた。
[ 16/73 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
top