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2

「あー、笑った笑った。
いや、久しぶりにこんなに笑ったよ。」

ようやく笑いの止まった咲人様が、はあ、と一息ついてコーヒーを口にする。
幸人様は仏頂面で黙々と朝ごはんを食べている。

「うん、堂島君。気に入ったよ。
これからが楽しみだ。」

咲人様が俺の肩をポンとたたいた。

「咲人様、お時間が」
「あ、うん。じゃあまたね、堂島くん。」

高田の声に、咲人様は俺に一言声をかけて食堂を後にした。
滝沢と共に頭を下げて見送る。

「…おい」

幸人様がむっとした声で呼びかけた。
体ごとそちらに向ける。

「…お前は俺の専属執事だろう。
あんな奴に愛想を振りまくな」

え?何言ってんのこの人?

思わず滝沢と顔を見合わせる。きょとんとした俺に対して滝沢は何だか難しい顔をしてる。

食事を終えたのか幸人様が椅子から立ち上がり、食堂を退室しようと歩き出した。
扉前でふと足を止め、こちらに振り返る。

「何をしている。学校まで送れ」

はいはい、わかりましたっと。
考えるのがめんどくさいしもういいや。

滝沢と共に後を追った。

今回は滝沢に運転してもらい、俺は助手席で学校までの道のりを覚える。カーナビは付いているが、自分の目でも覚えろってことだ。


10分ほど走っただろうか。
大きな校舎が見えてきた。
ゆっくりと外壁に沿い、門前へと車を付ける。

…でかい。
めちゃくちゃ、でかい。
学校も、大学くらいの広さだ。
金持ちの通う学校らしい。

「到着いたしました」

あんぐりと口を開けていると、滝沢が幸人様に声をかけた。
俺と滝沢が車から降りて、後部席の扉を開ける。
幸人様がゆっくりと車中から姿を現すと、周りにいた生徒たちから黄色い声が上がった。

「榊原様!おはようございます!」
「榊原様、おはようございます!」

そこら中から頬を染めた男の子たちが挨拶をしてくる。
幸人様の学校はどうやら男子校らしい。

頬染めるってどうなの。
いやでも、気持ちはわからんでもない。

「幸人!」

人込みを割って、一人の生徒が駆けてきた。
そして俺を見てその足をぴたりと止める。


…あ。昨日の。


じっと見られているので、ぺこりと頭を下げて会釈する。

「…おはようございます」

そいつは、ぽっと頬を染めて恥ずかしそうに目を伏せて挨拶をしてきた。

…頬染めるってなんなの。
こっちの気持ちはわからんなあ。

その様子を見た幸人様がひどく不機嫌になり、ずかずかと大股で校舎に向かった。
慌ててそいつもついていく。

「また帰りにお迎えに上がります。
いってらっしゃいませ。」

幸人様の背中に向かって二人そろって一礼をし、車に乗りこんだ。

何怒ってたんだろうな。
あれか。
自分のセフレが余所の男、しかも冴えない使用人に頬染めて挨拶したからかな。

ぼけっと窓の外を見ながらそんなことを考えていると隣の滝沢から小さくため息が漏れた。

「…お前は麻薬だな」

なんですと?
滝沢が運転をしながら、口元に苦笑いを浮かべて意味の分からないことを言った。


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