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6

「あ〜、いて。」

殴られた頬をさすりながら、部屋に戻った。

『正明っち、超おもろいイベントありがと!
なんでそうなったの?』

部屋に帰るなり、携帯にメールが届く。案の定というかなんというか、黛からだ。

「幸人様が急に殴り掛かってきてやり返せって言ったんですよ…っと」

ベッドに寝ころびながらぽちぽちと返信する。
送信ボタンを押すと同時に部屋のインターホンが鳴る。

富原さんじゃないだろうな?
またお説教とか勘弁してくれ。

「邪魔するぞ」

扉を開けると、そこにいたのは滝沢だった。
両手に救急箱を持っている。
ソファに座るように言われ、おとなしく言うとおりにすると滝沢は無言で俺の手当てを始めた。

「…なんであんなことしたんだ」

俺の手に薬を塗りながら滝沢が問いかける。

「なんでって、やれって言われたから?」

きょとんとして答える俺に滝沢が大きくため息を吐いた。

「俺たちは執事だ。あくまで、主人に雇われている立場なんだ。
いくら幸人様がそういったからと言って、ほんとに殴り返す奴があるか」
「なんでさ」
「あのな…常識で考えて雇い主を殴る奴なんかあり得ないだろ。
しかも、相手は榊原財閥の息子。
いくら理不尽なことを言われても黙って耐えるのが普通だ」
「幸人様もそんなこと言ってた」

さっきの殴り合いの発端となった幸人様の言葉を思い出す。


あの時、幸人様はお前たち執事は奴隷だと言った。
言いながらなんだか寂しそうだった。


手当が終わったのか、滝沢がてきぱきと救急箱を片付ける。
俺はソファにごろんと横になり、目を閉じた。

「おい、こんなところで寝るな」

滝沢がぺちんと俺の頭を叩く。

「いいじゃん、もう眠たい。
めんどくさい。
お前もここで寝れば?部屋戻んのだるいでしょ。」

くあ、とあくびをして滝沢を泊まれば?と誘う。

「馬鹿言うな、こんなとこで眠れるか。
ほら、連れてってやるからベッドで寝ろ。」

滝沢って融通が利かない。
腕を引っ張られたけど起き上がる意思のない俺はなされるがまま、だらりと力を抜いていた。滝沢がため息をついて手を離すと同時にぶらんとソファの横に手が落ちる。戻すのもめんどくさい。

「いいよ、もう…。明日も、早いんだろ…」
「…しょうがないやつだな」

今日はいろんなことがあって疲れた。

目を閉じて半分夢の中にいる俺は、何だかふわふわと雲に乗っているような感覚に陥った。


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