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纏をベッドに寝かせ、優しく髪をとく。それは、まさに愛しきものを思う仕草。
纏が目を閉じるのを確認し、静かに寝室を後にする。
「さて、と。えらい人数の子供が増えたなあ。ま、纏らしいわ。あんたら、纏が寝てる間に用事すませるから手伝いや。」
てきぱきと散らかった部屋を片づけだす風紀委員長。みなが呆然と見つめる。
「なにしとん?ほら、このゴミ自分らが出したんやろ?ゴミ袋もっといで。それから、掃除機…はうるさいからあかんな、箒借りといで。ああ、洗濯物もだいぶ溜まってるなあ。あんたら纏に洗ってほしくてこっちの部屋に持ってくるんやろ。あかんで、お母ちゃんかて学生やねんからやらなあかんこといっぱいあるんやからな?
甘えたいのはわかるけど大事なお母ちゃんやったら助けたらなあかん」
こんこんと、諭すように一人一人の目を見てしっかりと話をする。
それはまるで父親。
みなは、静かに頷き風紀委員長の指示に従い、部屋の片づけを始めた。
「そ、それはなに?」
台所で、ゆっくりと小さな鍋をかき混ぜる風紀委員長に、子供たちが尋ねる。見たことのない色の食べ物に興味津々だ。
「うん?知らんか、玉子酒っていうねん。お酒にな、溶いた卵を入れてゆっくり混ぜながら温めるねん。分離せんようにな。俺らのガキんころから親が作ってくれたもんでな、風邪によう効くんや。纏はこれが好きでなあ。これ飲んだら一発で治るわ。混ぜてみるか?お母ちゃんに手作り料理食わしたくないか?」
「「「「や、やる!」」」」」
一人一人、順番にかき混ぜていく。
「そうや、うまいで。なんや自分らやればできるやん。部屋の片づけとかもうまかったし、これからはちゃんと甘えるだけやなくて助けたれるな?」
ぽんぽんと、頭を軽く叩かれみなはそわそわした。
出来上がった玉子酒を、小さな湯飲みに移しお盆に乗せ寝室に向かう。
「ま、まて」
扉を開けようとする風紀委員長に、会長が声をかけた。
「ん?どした?」
「お、俺は纏が好きだ!」
会長は、風紀委員長にきっぱりと宣言する。
「そ、それなら私だって!」
「おれも!」
「俺もだよぉ〜」
「「ぼ、僕たちも!」」
「…すき」
「おれもだ!」
「なんだてめえら!俺だって!」
会長をかわきりに、次々と宣言していく子供たち。
取られてたまるか。
宣戦布告、のつもりだった。
だが。
「そうか。ありがとさん、そら纏も喜ぶわ。いつも電話であんたらのこと言うてるねんで。手が掛かるけど、優しいイイコたちやって。俺も絶対好きになるから、会ったってくれってな。
うん、確かに纏の言うとおりや。あんたら手は掛かるけど素直なええ子らや。
でもごめんな。纏はあげられへん。君らのお母ちゃんは、俺の大事な嫁やから。俺が責任もって幸せにするから許してくれへんか?この通りや。」
真摯に、頭を深々と下げる風紀委員長に、誰もが無言になった。
「…おかあさんは、風紀委員長だけのものなのか?」
会長が、ぽつりと俯きながら寂しくこぼす。みな泣きそうだ。
「そら違うな。お母ちゃんはみんなのもんや。そうやろ?
子供からお母ちゃんを取り上げるようなマネはせんよ。俺のもんなんは、お母ちゃんじゃない時の纏。
君らは纏の大事な子供や。だから俺にとっても大事な子供らや。」
「「「「…お父様…」」」」
にっこりと微笑む風紀委員長に、みなが駆け寄った。
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