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「知り合い…なのか?」
ぽつりと、テツヤに対して愛称をつぶやいた小暮に俺とテツヤが同時に見つめる。特にテツヤは、まさか、というように目を見開いていた。
「そう。この子は、小暮鉄也。小暮さんの、遠縁のいとこなんですよ」
ぱさり、と俺の前に差し出された紙に目を通すと、そこにはテツヤの個人情報が並べられていた。
小暮のおじいさんの、お兄さんの孫。確かに、親戚ではあるが住んでいる地域を見るとここからはかなり離れている。
「親戚なら…どうして小暮をわざと傷つけるようなことしたんだ?階段だって、一歩間違えたら死んでたかもしれないんだぞ!」
「だって!」
テツヤのしでかしたことを思い出して詰め寄ると、テツヤは泣きそうな顔をして叫んだ。
「やくそく、守ってくれなかった!鉄男くん、約束守ってくれなかったもん!」
子供のようにわめくテツヤに、小暮が何かを思い出したのか『あ』という顔をした。テツヤはそれに気付かずに、ぶるぶると震えて下を向き唇を噛みしめている。
「てっちゃん」
「鉄男くん、僕に言ったじゃないか!大きくなったら、僕を迎えに来てくれるって!僕、ぼく、ずっと待ってたのに!鉄男くんが僕を迎えに来てくれるの、待ってたのに!約束の年になっても来てくれなくって!僕、ここに転校してきて、せっかく会えたのに、鉄男くん、僕のこと忘れてた…っ、!」
ぼろぼろと、我慢しきれなくなったのかテツヤの目から大粒の涙が落ちる。先ほどまでの強気な態度が嘘のようだ。
「か、カッとなって、思わず押しちゃって、でも、そのせいで、会長が鉄男くんのこと忘れて。ぼく、いい気味だって思ったんだ。忘れられちゃった僕と、同じ気持ちを味わえばいいんだって…!約束忘れて、一人幸せに暮らしてる鉄男くんなんて、苦しめばいいんだって思ったんだ!」
息も絶え絶えに嗚咽を漏らしながら叫び、小暮をあざ笑うテツヤはその様子とは裏腹にとても苦しそうに見えた。黙ってテツヤの話を聞いていた小暮がゆっくりと立ち上がると、まっすぐにテツヤに向かう。
「な、なに…」
そして、涙をこぼすテツヤをそっと引き寄せて抱きしめた。
「ごめんね、てっちゃん。俺が悪かった。ごめん。」
「い、いま、さら…っ、」
「うん。でも、思い出したから。俺が言ったんだよな。『テツヤは俺の弟になればいい』って。約束、忘れてごめんな。」
「…っ!」
優しく抱きしめ、よしよしと頭を撫でると震える手をおずおずと小暮の背中に回し、きゅっとシャツを掴んだ。
「ばかあぁあ…!でづおぐんのばかあああ!わあああん!」
まるで堰を切ったようにわんわんと泣き出したテツヤを、小暮はいつまでもあやしていた。
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