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8

「…やの、…じ…、

…っあやの、こうじ…!」


ぽたり、ぽたりと、何かが頬に落ちてくるのを感じてうっすらと目を開ける。目の前には、とめどなく涙を流して俺を覗き込む愛しい人。

手を伸ばして、流れる涙を拭ってやるとびくりと体を竦ませた。

「…小暮」
「…!」

俺が呼び掛けると、驚いたように目を丸くする。あは、びっくりしてる顔可愛いな。

「どうした?小暮…なにかあった?大丈夫か?」
「あ、や…」
「ん?」

体を起こして、軽く首を傾げて覗き込んでやると小暮はくしゃりと顔を歪めた。じんわり浮かんだ涙が、ぽろぽろとこぼれると同時に、小暮は俺に思い切り抱きついてきた。

「おっと…!」
「あや、こ…じ…っ!あやの、こうじ…っ!」
「どうした?ほんと、大きななりして泣き虫だなあ。よしよし」
「ひ、っく…!う、うわああ…!」

ぎゅうぎゅう抱きつく小暮をの背中をぽんぽんと小さい子をあやすように叩いてやると、小暮はわんわんと大きな声を上げて泣き始めた。かわいいなあ、とでれりと顔が緩むのがわかる。そこで、ふと気が付いた。

あれ?どうして俺はこんなとこで倒れてたんだっけ?俺が倒れたのは、確か階段で小暮を…

「っ!そうだ!小暮、階段!」
「うあ!」

しがみついて泣きじゃくる小暮を無理やりはがし、ペタペタと顔や体をまさぐる。俺の行動に驚いた小暮の涙が止まって、何事かと目を白黒させて焦っている。よかった。この様子からするとどこもなんともなかったみたいだ。

「大丈夫か?お前が階段から落ちてくるのを見た時は心臓が止まるかと…どこも痛くないか?無事か?」

優しく問いかけると、少し困ったように眉を寄せた小暮がこくんと頷く。

「ああ、ようやく声をかける人を正しく認識したようですね。」

ホッとして又抱き寄せようとした俺の後ろから、冷ややかな声が響く。ヒヤッとしながらも振り向くと、そこには案の定氷のような眼差しで俺を見つめる副会長の山本。そして、その隣に、泣きそうに顔を歪めている上村と、そして…

可愛らしい顔を醜く歪ませる小暮テツヤと、それを逃がすまいと、腕を強くつかんでいる草壁がいた。

「…っ、離してよ!」
「離すわけないでしょ。君には正気に戻った会長からきっちりと引導を渡してもらわなきゃいけないんだから。ね、会長?」
「引導…?」

なんのことだ、と一瞬首を傾げて思いだす。…そうだ。こいつが、小暮を突き落したんだ。

「なにさ!き、記憶がないときに僕とそいつを勝手に間違えたのは会長でしょ!?今まで散々小暮小暮って甘えてきといて、記憶が戻ったからってそれを責められる筋合いなんてない!」
「お前と?小暮を、間違えた?」
「そうだよ!」

草壁の腕を振りほどこうとしていた小暮テツヤが、俺をキッと睨んで、そしてその目を俺の隣にいる小暮に移した。そして、にやりと歪んだ笑みを浮かべたかともうと一切の抵抗をやめてふふ、と笑う。

「会長、僕を君と間違って恋人として扱ってくれてね。ねえ、知ってる?君の代わりに、好きだ好きだって、何度も抱きしめて、何度も何度もキスして、それから抱いてくれたんだよ?それって、本気で間違えてたんだと思う?ほんとは間違えたふりして、君に愛想つかしてたんじゃないのかな?」
「な…!」

何て事言いやがる!俺が、小暮以外に愛を囁いただって?小暮以外を抱いただって!?

「そん、」
「それでもいい」

俺が反論するよりも先に、きっぱりとそういってのけたのは小暮だった。小暮の言葉に、テツヤだけでなく役員の皆も驚いた顔をしてる。俺もそうだ。それでもいいってどういうことだ?俺が愛想を尽かしてもいいってことか?

「キスをしていようが、君を抱いていようがそれでもいい。綾小路は、君を俺だと思ってた。それなら、それは君を愛してたわけじゃなく俺を愛してることに代わりはない。間違えていようが、君を小暮鉄男だと思ってやっていたならそれは俺に対してしてくれた行為だ」
「…!ま、間違えたんじゃなくて、本気だったらって言ったじゃん!」
「本気だとしても、かまわない」

挑発したはずのテツヤの方が、まるで追い詰められているかのように小さくなっていく。傷つけられたはずの小暮は先ほどまで泣いていたとは思えないほどに凛として気高く写った。

まっすぐにテツヤに向けられていた目を、俺に向けてふと目を細める。


「俺が望むのは、綾小路の幸せだけだから」


ふわりと微笑む小暮は、本当にきれいだった。



「もう諦めたら〜?君が本当は誰なのか、調べちゃってるんだよね〜。」

妙に間延びした声は上村が発したものだった。それにぎくりと反応したのは、やはり小暮テツヤで先程までさっと顔色が青くなる。

「こぐちゃん。こいつ、よく見て。」
「…?」

ぐい、とテツヤを小暮によく見えるように上村が押す。小暮は言われたとおりに黙ってテツヤをじっと見た。



「…てっちゃん…?」

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