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7

驚いて体を起こすと、そこにはあのごつい男がいた。
またか。どうしてこいつは、小暮と会っているときに必ず俺たちの前に現れるんだ。

ちっ、と舌打ちをして立ち上がると、そいつは俺に向かって近づいてきた。いつもこいつは無言でどこかへ行くのに、目の前に来られたことなど初めてで少し驚く。

…そう言えば、こいつはさっき変な事を言わなかったか。
『きっかけは手紙』だと。

黙ってじっと見つめていると、そいつはゆっくりと息を吸い込んでからぐっと胸を張った。

「俺たちの付き合ったきっかけは、手紙だ。俺が、お前に出したんだ。」
「は…?」
「な…!」

そいつの言葉に、隣にいる小暮がひどく驚いた顔をした。それにまた違和感を感じる。どうして小暮はこんなに焦ったような顔をしてるんだ?
小暮から目の前の男に視線を移すと、そいつは何か固い意志を持った顔をしていた。

覚悟を決めた。

そんな顔だ。

「俺が、おまえを呼び出す手紙を書いたんだ。約束通り呼び出した場所に、お前は来てくれた。だけど、俺を見て言ったんだ。『タイプじゃない。どうせ抱くならかわいい子がいい』と。」

ズキン、と頭がまた痛み出す。そいつの口から出た言葉は、先ほど俺が上村に言った言葉だ。それを、直接こいつに言っていた?

「そこからすぐに去ろうとするお前を捕まえて、俺はお前に頼みごとをしたんだ。」
「頼みごと…?」

痛む頭の中に、ぼんやりと映像が浮かぶ。顔ははっきりしないが、誰かが俺の腕を引いて真っ赤な顔をして必死に何かを訴えている。

「それが、俺たちの始まりだ。綾小路」
「あ…」

まっすぐに見つめるそいつと、頭に浮かぶ映像がゆっくりと重なる。もう少し。もう少しで。

「あっ、綾小路君!」

無意識にそいつの方へと一歩踏み出していた俺の腕を取り、現実の世界に引き戻したのは小暮だった。必死な顔をして、俺を行かせまいと腕に絡みつく。

「お、思いだしたよ!僕、僕達の出会いは、学校の外だ!僕を見て、かわいいねって言ってくれたのが始まりでっ…」
「綾小路」

俺との出会いを必死に話す小暮の言葉を遮る。どうしてだろうか。目の前の、恋人であるはずの小暮よりも、そいつの言葉を聞かなくちゃいけないって。今聞かないと、俺は今度こそ本当に大事なものをなくしてしまうと感じたんだ。

「綾小路君!」

そいつを見つめる俺の腕を、小暮が必死に引く。それでも、俺の視線はそいつから離れない。…離したくないんだ。
きゃんきゃん横で泣きそうにわめく小暮の声が、どんどん小さくなって聞こえなくなる。俺のいるはずの生徒会室の風景もどんどん闇に飲まれていって、俺はピンと張りつめた黒の世界にただそいつと二人だけで佇んでいた。


「…綾小路…、好きだ…」

ふわり、と。

目の前のそいつが俺に向かって柔らかく微笑んだ瞬間、俺は映像の洪水に飲み込まれた。



オレンジ色の校舎の中、ゆらゆらと画面が動き出す。それは俺の目線であるのに、俺は自分の思い通りになんて動かなくてどこかへまっすぐと向かっている。校舎の中を歩きながら、ああ、これはあの時だと漠然と思った。

あの日。これは、噂の真相を確かめに行こうと小暮の教室に向かっているときのあの日の映像だ。

あの時と同じく小暮のクラスに向かう階段に差し掛かると、何やら人の話し声が聞こえた。一人は、愛しの小暮だ。そしてもう一人は…?

それは、つい最近までずっと聞いていた声。

あの日のように、階段を一歩ずつゆっくりと上がる。足元を見ていた俺の顔にふと影がかかり、顔を上げると


「あぶないっ…、…っ!」


俺に向かって落ちてくる小暮の向こう側。



歪な笑みを浮かべ、突き飛ばす形で両手を前に出している、小暮テツヤを見た。

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