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4

伊集院の呟きを聞きながら、原口は喧嘩の原因を思い出していた。


伊集院と学校公認の仲になったはずの原口だったが、実は伊集院の取り巻きの一部からいまだ陰で嫌がらせや呼び出しを受けていたのだ。

それは原口に対して行われる行動だけでなく、伊集院にわざと原口の前でさり気なく引っ付いたりプレゼントを渡したりなど、二人の仲を拗れさせようとするようなものもあった。

だが、伊集院が原口にベタぼれなのは有名だから、ひどく目立つものではなかった。

原口自身も特に騒ぐものでもない、自分で処理できる範囲だと誰にも何も言わなかったし伊集院に寄っていく人間に対して何か言うわけでもなかった。
それがある日、伊集院は原口が呼び出しをされて自分の取り巻きの人間より罵られているところを偶然目撃したのだ。すぐさまその場に飛び出した伊集院は、そこで初めて原口がいまだに嫌がらせや呼び出しにあっていることを知った。

伊集院は、原口に詰め寄った。どうして何も言わなかったのかと。

原口はその問いに困ったように笑って、『特に問題はないから』と言った。実際、原口は呼び出されようが嫌がらせをされようが歯牙にもかけていなかった。何より、伊集院に自分の事で悩んでほしくなかった。それが、伊集院にはうまく伝わらなかった。

原口がなだめても、伊集院はどんどんとヒートアップしていった。そして、自分の取り巻きの事を『必要のない人間だ』とまで言い出したのだ。

原口は怒った。

『確かに行きすぎるときや間違っているときもあるけれど、自分を慕ってくれている人間の事をそんな風に言うもんじゃないよ。』
『…っ、忍は、俺が誰かに言い寄られていてもいいっていうのか!』
『かまわないよ』

伊集院は美形で、頭がよくて、家柄もいい。そんな3拍子も4拍子も揃った人間が慕われないはずがない。言い寄るなと言う方が無駄だし、言い寄る人間がいたとしても自分がしっかりと伊集院を引き止めていられればそれでいい。好きになるな、などと言えるはずがない。人の気持ちなど操れるはずもない。自分がいくら『伊集院に好意を寄せるな』と言った所で、好きな気持ちを止められるほど人間は器用ではないのだ。

『…もういい』

そう説明しようとするよりも先に、原口の言葉を聞いた伊集院がさっと顔色をなくした。そして、一言だけ小さくこぼして背中を向けて去っていってしまった。


それから、あの事故。


原口が思いだしてもらおうと言い募ることができなかったのも、事故前の言いあいが原因でもあった。記憶をなくしたと聞いた時、すぐに話し合いをすればよかったと、幾度も思った。でも、もしかして。

記憶をなくしたくなるほど、本当はあの時に自分に嫌気がさしてしまったのではないかと。

そう思ってしまう自分もいたのだ。



「…崇」

掃除をする伊集院の後ろ姿に、小さく声をかける。伊集院は呼びかけにびくりと体を竦ませ、箒をぎゅっと握りしめてカタカタと震えていた。

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