5
振り払われるだろうか。『平凡が』と罵られるだろうか。
そっと、震える伊集院に背中に近づき両腕をその体に回す。
「…必要なくなんか、ない。」
自分は、勘違いしていた。
「そんなわけないだろ?いつも言ってるじゃないか。崇は、俺の青い鳥なんだって。幸せを運んでくれる大事な人なんだって。」
何も言わないことが、伊集院の為だなんて、言い訳だ。
「お前がいないと、息もできないほど大切なんだ。」
まるでどうでもいいような自分の答えに、伊集院はどれほど傷ついただろうか。
「人が寄ってくるのも、お前が魅力的だからだってわかってる。だからって、嫉妬しないわけじゃない。…俺が何も言わなかったのは、お前が大事だから。大事にしたい。心配かけたくない。だからこそ言えないし、言いたくなかった。どうでもいいわけじゃないんだよ。カッコつけたかったんだ。お前が、大事だから。」
大切にしたい。いい男でいたい。自分の小さなプライドで、傷つけた。伊集院だって、男だ。自分のせいで大事な人を傷つけられて、平気でいられるはずがない。自分と同じ、大切に思うんだと、大事だからこそ守りたいと同じように思うとどうして思えなかったんだろうか。
『もういい』と言った時、どんな気持ちだったんだろうか。その後、自分と会わなかった日をどんな気持ちで過ごしていたのだろうか。
「崇が、好きだ…。大事なんだ。お前がいらないってんなら、俺がもらう。伊集院崇を必要な人間はここにいる。お前は、俺の青い鳥だ。俺に幸せを運ぶ青い鳥だ。」
だから、帰ってきて。
抱きしめる腕に、力を込めて背中に顔を埋めて呟いた瞬間。
「し…の、ぶ…?」
小さな、小さな声で原口の名を呼ぶ声が聞こえた。
埋めていた顔をそっと上げると、振り返り自分をじっと見つめる伊集院と目が合う。抱きしめていた腕の力を抜くと、ゆっくりと体を反転させて原口と向かい合う。震える手をゆっくりと上げて、伊集院が原口の頬に手を添える。頬に触れる手に恐る恐る原口が手を添えると、伊集院はその目からボロボロと涙をこぼした。
「忍…っ、忍にとって、俺は、なんだ…?」
「この世界で一番大事な恋人だ。」
眉を下げて微笑みながらそう言うと、伊集院は嗚咽を漏らしながら原口に抱きついた。
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